夏祭り
透子さんの方から夏祭りに誘ってもらえた。僕はとても嬉しい反面少し不安だった。
――どうして急に誘ってくれたんだろう?
この間は友達が急に来て、透子さんのことを美人だと言ってるのが聞こえて、正直面白くなかった。だから、透子さんに素っ気なくしてしまって申し訳なく思っていたのに、透子さんは大人だからそんな僕に変わらず接してくれている。
――自分の子供っぽさが嫌になるけど。
そんなことを考えていると透子さんからライムが来た。
『夏祭りの日、シフト入ってた』
――あ、そっか。日曜日だし。
僕は少し残念に思いながらも文字を入力して行く。
『大丈夫ですよ、他の日にでも遊びに行きますか?』
『始まってからで良ければ行けるよ』
『それなら、待ち合わせ何時にしますか?』
『仕事が終わるのが20時だから、20時半でも良い?』
『良いですよ。少しだけでも大丈夫です』
祭りが終わるのは21時過ぎだけど、仕事が入っているのは仕方ない。僕はその日は休みになっていた。
『ありがとう!』
透子さんからメッセージと一緒にありがとうのスタンプも送られてきた。
『いいえ。そしたら会場の入り口で待ち合わせますか?』
『うん、お願い』
* * *
夏祭り当日。僕は20時半に会場前にいた。
――なんか、ドキドキするな……。
そんなことを思いながら僕は透子さんを待っていた。
「一希? こんな所で立ってどうしたんだよ?」
声のした方を見ると、玲士が他の友人達と歩いて来ていた。
「あ、玲士」
「私もいるわよ」
「リリー」
「なんか今一瞬がっかりしたような顔しなかった?」
「……気のせいだよ」
――ごめんなさい、しました。
「で? 何してたの?」
「待ち合わせ」
「誰と?」
リリーは聞き出そうとしてくる。正直面倒くさい。
「誰でも良いだろ?」
「ごめんね、待たせて!」
待ち望んでいた声が聞こえ、僕は忠犬のように声の主の方を振り向いた。透子さんは暑い中走ってきたのか、汗だくになっていた。
仕事帰りの透子さんは作業着の時とは違って、新鮮に見える。
「白雪さん!」
「お友達?」
透子さんは少し戸惑っているようだ。2人でって話のはずが、他の余計な人がいたら戸惑うのも無理はない。
「はい。偶然そこで会いました!」
「そう」
「僕達も一緒に良いですか?」
友人の一人が透子さんに声をかえる。若干僕はイラッとした。
「バカ、お前空気読めよ、デートだろ?」
ヒソヒソと話しているのが微かに僕の耳にも聞こえた。リリーが冷たい眼差しを僕と透子さんに向ける。
「年上なんておばさんじゃない!」
「リリー、なんてこと言うんだよ」
「だって、本当じゃない!」
「白雪さんに謝れよ」
「なんで? 絶対謝らない」
僕は透子さんのことをおばさん呼ばわりしたリリーに怒りが込み上げてきた。
透子さんを見ると明らかにショックを受けているようだ。
「……おばさんなんかじゃないですよ、お姉さん」
何故か玲士や他の友人がフォローを始めた。
――何で他の奴らがフォローしてるの?
僕は誰に何に苛ついているのか分からなくなってきた。