夏休み
私の勤めている飲食店に、バイトの男の子がいる。近田一希くん。彼はとても真面目で礼儀正しい素敵な子。彼が入ったばかりの頃、告白されてしまい私は卒業したらと、やんわり断った。けれど、近田くんは変わらず優しくしてくれている。
私が風邪を引いた時も心配してくれて、その時にライムを交換してからやり取りをするようになった。彼はとても頑張りやさんな男の子。微かに惹かれているのは気のせいと言い聞かせている。
――だって、彼は高校生。私は年上の女性。世間的にまずいし。
そんな気持ちを抱えながら私は、いつものように仕事をしていた。その日はいつもより人手が足りないのに、お客さんが沢山来店していた。
「透子ちゃんごめん、ウェイトレス足りなくて、こっちは間に合ってるから、少しだけホールに入ってもらえる?」
料理長とホールのリーダーからの指示なんて断れる訳が無い。本当はホールなんて出たくもない。
「分かりました」
私は作業着からホール用の制服へ着替え、ホールへ向かった。すると早速高校生の男の子達のグループから呼び止められる。
「すみません!」
「はい」
「注文お願いします」
「はい」
「ハンバーグ定食2つお願いします」
「ハンバーグ定食、2つですね?」
「はい!」
「かしこまりました、ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です!」
少年達は何やらニヤニヤしてるように見える。私はそれに気付かないふりをして厨房へ戻って行く。すると、耳に微かに声が届いた。
「一希の言ってた人だよな?」
「ああ、多分」
「美人だな」
「なー」
私はその時気づかなかったけど、それを一希くんは見てたみたいで、その後の態度が最悪だった。
「オーダー入ります!」
厨房に戻った私が作業をしていると、苛立ちを隠せないような声で注文を告げに来る。
その後も一希くんは私と目を合わせず態度がおかしい。
――何なの? どうしたの? 一希くん。
そんな気持ちのまま一希くんが帰る時間になった。私もあと数時間で帰る時間になる。他のスタッフももう、私と料理長しかいない。
「お先です」
「あ、近田くん!」
「……なんですか?」
帰ろうとしている一希くんは後ろを通り過ぎたまま、振り返りもせずに返事をした。いつもと違う冷たさに私は心苦しくなった。
「ううん、何でもない。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
かろうじて会釈だけはしてくれて、一希くんは帰って行った。
* * *
私はこの気持ちをどうしたら良いのか迷い、以前勤めていた職場で仲良くなった友達の黒部 佳代子に相談することにした。私はライムでメッセージを送る。
『佳代ちゃん、相談しても良い?』
『どうしたの? 何事?』
『実はね……好きな人がいるの』
『そっか。長谷川さん?』
『違う、私ああいうタイプは嫌』
『へぇ? じゃあ誰?』
『佳代ちゃんは知らない人だよ。言いづらいんだけど……相手は高校生の男の子』