風邪?
「どうしたの?」
「あ、いえ……」
――何でだろう? 熱があるはずなのに額が冷たい。
「額が冷たくて……」
「ああ……私低体温だから」
だるそうに透子さんは呟く。
「低体温?」
「うん、だから冷たいの」
「そうなんですか?」
――でも、熱があるならそれなりに温かいはず?
僕は不思議に思いながらも、透子さんの言う事を信じることにした。
「家まで送ります」
「え? 大丈夫だよ。近いし」
「心配なので、送らせてください。足元もおぼつかないじゃないですか?」
透子さんはフラフラした足取りで歩こうとしている。
「……それじゃあ、お言葉に甘えてそうしようかな」
「はい、そうしてください」
透子さんが近いと言うだけあって、あっという間に家まで辿り着いた。透子さんの家は、木造平屋造りで日本の民話に出てきそうな、おばあちゃんの家をイメージさせる。玄関まで行くとあとは大丈夫だからと、僕は帰らされた。
「ありがとう、近田くん」
「いいえ、あ、そうだ!」
「え? 何?」
「何かあった時のために連絡先交換しませんんか?」
透子さんは微かに驚いた様子を見せたが、快く交換してくれた。
「ありがとうございます。お大事にしてください」
「うん、ありがとう」
具合の悪い透子さんを残しながら僕は、後ろ髪を引かれる思いでバイト先へ戻って行った。
* * *
それから数時間後。僕は夕食を終えて勉強をしている時スマホに着信があった。
――え? もしかして透子さん?
見るとライムでメッセージが届いていた。
僕は思わず叫びそうになったが何とか堪えた。
『今日はありがとう。明日は念の為休むことにしたよ』
『分かりました。お大事にしてください』
『うん。ありがとう、おやすみなさい』
『おやすみなさい』
嬉しすぎて勉強に集中出来なくなってしまった僕だけど、集中しない訳にもいかずそれから僕は深夜まで勉強していた。
翌日。僕はバイトに来ていた。今日は透子さんの昨日の予告通り、透子さんは休んでいる。
昼休憩の時に僕は透子さんにライムをした。
『体調どうですか?』
寝ているかもしれないし、返信は期待しないでおこうと思っていたら10分後、メッセージが届いた。
『昨日より良くなったよ。熱もほとんど下がったし、明日には行けると思う』
メッセージと一緒に『大丈夫』というスタンプが届いていた。
『良かったです。安心しました』
『心配してくれてありがとう、近田くん』
僕はこんなきっかけで透子さんとやりとりが出来るようになって、幸せを噛み締めている。
『ゆっくり休んでください』
僕は送信すると長谷川さんがやってきた。
「ん? 近田くん、熱心に誰とメッセージしてるの? 彼女?」
――言える訳ない。透子さんが相手なんて。
「高校の友達です」
長谷川さんにバレないように僕は嘘をつく。
「そうなんだ?」
それ以上詮索をしてこない様子に僕は何となくホッとした。
「それにしても透子ちゃん、大丈夫かなぁ?」
突然の透子さんの名前に僕は動揺してしまう。
「……どうでしょうね?」
「昨日俺は休みだったけど、早退したって聞いたからさ」
「はい、大丈夫だと良いですね」
「うん。連絡先でも分かれば連絡するのになぁ」
――長谷川さんは連絡先を知らないんだ?
その発言に僕は内心嬉しさが込み上げてくる。
「僕、そろそろ戻りますね」
「ああ、後半も頑張れ」
「はい、ありがとうございます」