将来
「近田くんは将来何かしたい事とかあるの?」
「僕、進学して薬膳の勉強がしたいと思っています。なので、進学資金を貯めたくて今バイトをしてるんです」
「進学資金貯めてるなんて凄いね?」
「……いえ。家、両親が離婚してるんです。母も亡くなってて祖父母に育てられたんで……」
「……そっか。ごめんね、立ち入ったこと聞いちゃって」
僕が目線を伏せながら話すと、透子さんは切なげにまぶたを伏せる。
「いいえ。気にしないでください。大丈夫ですから」
「……うん。けど、薬膳やりたいと思ったのは何で?」
「母が病気で亡くなったので、そういう体に不調がある人の役に立ちたくて……」
「そっか。なんか色々苦労して来たんだね……」
「ああ…大丈夫ですから! 確かに笑って話せる内容ではないですけど、僕にしたら慣れてるというか、離婚は小さな頃ですし、母が亡くなったのも小学生の頃なので。時々寂しいですけど、おじいちゃんやおばあちゃんが本当に良くしてくれたので、だから大丈夫です!」
僕は透子さんを困らせないように明るい口調で話す。
「そうなんだ……凄いなぁ、近田くん」
「凄くなんてないですよ。白雪さんだって……」
「え?」
僕は思わずとても素敵だと言いそうになって、思い留まった。
「……白雪さんはどうして料理の仕事をしてるんですか?」
僕は恥ずかしさの余り、話題をそらしてしまう。
「私はね、普通に好きだから……かな?」
「調理学校へ行ったんですか?」
「うん、そう。専門学校ね」
「そっかぁ」
「薬膳の学校って? 専門学校?」
「みたいなものです。でも、専門学校ほどは費用かからないですよ」
「そうなんだね……頑張ってね! 応援してる!」
「ありがとうございます」
透子さんが応援してくれて、なんだか僕は嬉しくなりますます頑張ろうと思えた。
* * *
暖かな日が続くある日のこと、バイトへ行くと透子さんの様子がおかしい。
「……白雪さん? 大丈夫ですか?」
どこかぼんやりしている透子さんに僕は声をかけた。透子さんは作業をしているのに、いつもよりも動きがスローに見える。
「え? うん……なんかちょっとボーッとしてて」
「もしかして、風邪でも引きました?」
「風邪? どうなのかな?」
「ちょっと、体温測った方が良いですよ」
「……うん」
僕達の会話に気付いた周りのスタッフも、声をかけてくる。
「え? 透子ちゃん、体調悪い?」
「はい、少し」
「無理しない方が良いよ? 今日は帰って休んだら?」
「はい、すみません」
「あの、僕心配なので付き添っても良いですか?」
「近田くん? 今日は人がいるから良いけど、すぐに帰って来てね?」
ホールのリーダーが許可をくれて僕は透子さんに付き添った。休憩室へ行き事務室から体温計を持ってくると、透子さんは体温を測った。
「ピピピッ ピピピッ」
「どうですか?」
体温計を取り出した透子さんは、じっと体温計を見つめている。
「……38度」
「ええ?!」
思わず僕は透子さんの額に手を当てる。
「え?」
――無理だ。言えない。言える訳が無い。恥ずかし過ぎる……!