始まり
学校が始まり僕は勉強に集中する日々が続いた。薬膳は中国の中医学から来ていて、漢字だらけで難しく感じてしまう。
「良いですか? 五味とは5つの味、甘味、辛味、苦味、酸味、鹹味(しょっぱさ)と味覚そして、その働きを合わせたものです」
先生はホワイトボードに書いて行く。
僕は先生の書いたことを書き漏らさないようにノートに書き込んで行く。
――鹹味はしょっぱさのこと、と。
それにしても鹹味なんて、なんて難しい漢字なんだろう? そもそも中国発祥だから漢字だらけなのは当たり前なんだけど……。
そんなことを考えながら僕は授業を聞いて行く。生徒は色んな年代の人達がいる。主に女性が多い。僕と同じくらいであろう人はあまりいない。
――こういうのって女の人が好きそうだしね。
授業が終わりお昼になると僕は、自分で握ってきたおにぎりを食べた。おにぎりには中にそれぞれ鮭と梅を入れた。僕はまだそこまで料理は出来ないけど、出来ないなりに卵焼きを焼いてみた。
――いつか透子さんにもらった卵焼きには足元にも及ばないけど。
何となく透子さんのことを思い出し、僕は微笑ましくなった。透子さん、どうしてるかな? 今日は仕事かな?
僕はスマートフォンを取り出し、透子さんにライムをする。
『透子さん、今日は座学で色んなことを学びました。透子さんは勉強順調ですか?』
少しして透子さんから返信が来る。
『どんなこと学んだの?』
『薬膳の基礎的なことです』
『そうなんだ? 私もねハーブの発祥とか勉強してるよ』
『ハーブの発祥ですか?』
『うん、古代から植物療法として使われてたみたい』
『へぇ……そうなんですね』
『うん。午後も座学?』
『はい、まだ実習には入りません』
『そうなんだ? お互い頑張ろうね』
透子さんとこんなやりとりをしてるのが僕はとても嬉しい。僕が透子さんとやりとりしていると、人が近づいて来た。僕の席の前に来ると突然声をかけて来る。
「近田くん、誰とやりとりしてるの? 友達?」
近付いて来たのは恐らく同年代の女の人だった。
「あ……はい」
「近田くんって歳いくつ?」
そう言いながら彼女は僕の席の前に座った。
――え? 座るんだ……。
「18です」
「18かぁ。私は19歳、よろしくね」
彼女は茶髪に顎の辺りまであるボブカットが印象的だ。
「よろしくお願いします」
「で? 友達?」
「ああ、そう……です」
思わず僕はしどろもどろになってしまう。
この人なんか苦手だ。
「そうなんだ? 他県から来たって言ってたもんね」
「はい、そうです」
「近田くんはさ、彼女いる?」