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バレンタイン、そして……

『一希くん、バレンタインのチョコレートなんだけど、こういうの食べたいとか希望ある?』


『トリュフとか好きです』


『トリュフね、わかった。ありがとう』


 透子さんがそんなことを聞いてくるなんて、わざわざ買ってくれるのかな?と僕は思っていた。


 バレンタインはバイトで透子さんもシフトが入っていた。終わった後に少しだけ時間を作って僕達はカラオケボックスに来ていた。


「はい、一希くん、バレンタインチョコレート」


 そう言いながら差し出してきたのは、ワインレッドの包装紙に包まれた小さな長方形の箱だった。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 透子さんは少しはにかむように笑った。


「開けて良いですか?」


「うん、どうぞ」


 箱を開けると中には丸い形をしたトリュフが敷き詰められている。よく見るとそれぞれ少し大きさが違う。


「もしかして、手作りですか?」


「うん、そう」


「嬉しいです、いただきます」


 僕は一粒指先でつまんで口へ入れると、甘さ控えめながらもしっかりとカカオの味がする美味しいチョコレートだった。


「美味しいです。さすが透子さんですね」


「ふふ、ありがとう」


「あ、そうだ」


「え? 何?」


「せっかくバレンタインなので、食べさせて貰えますか?」


「え? 食べさせるって……あ」


 僕は自分から提案したものの、恥ずかしくなって来る。急に心臓がドキドキしてきた。


「良いよ、はい、あーん」


 透子さんはトリュフを一粒つまむと、僕の口へそっと入れた。


 僕は飲み込むと言葉を発する。


「なんか、恥ずかしいですね」


「そうだね、ドキドキしちゃう」


「透子さんも食べますか?」


「え? 私も?」


「はい、僕もやってみたいです、透子さんに」


「うん……恥ずかしいけど良いよ」


 僕はトリュフを一粒つまみ透子さんの艷やかな唇へトリュフを入れた。透子さんは目線を伏せている。


「うん、美味しい」


 僕達はクスクスと笑い合う。それから僕達は軽食を注文して、せっかくだからと歌を歌った。透子さんの歌声はまるで天使のような歌声だった。



* * *



 そして、3月になり僕は卒業式を迎えた。それからの日々はとても早く、いよいよ旅立ちの時が訪れた。


 僕は電車に乗り継ぎ今日東京へ向かう。


 これから一人暮らしをして学校へ通う。アパートは前もって決めてあり、学校が始まったらバイトをする予定だ。駅には玲士と透子さんが来てくれている。祖父母は見送りはしないと言っていた。


「頑張れよ、一希」


「うん、ありがとう。そのうち連絡するよ」


「うん」


 玲士とそんなやりとりをするのも最後だと思うと、喉の奥に熱いものが込み上げてくる。


 玲士は透子さんと僕を2人にさせようと気を利かせてくれた。


「ありがとう、玲士」


「いいや、上手くやれよ」


 透子さんと僕はまだ付き合ってはいない。

 今日この瞬間から付き合うことになる。


「透子さん」


「なあに?」


「高校を卒業しました。成人年齢にもなりました。距離は離れてしまいますけど、僕の彼女になってください!」


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