恋人未満
僕は透子さんとこんなに至近距離にいるのに、こんな状況だということを嘆きたくなった。ふわりと優しいシャンプーかボディソープの香りが鼻をくすぐる。
「良い香り」
「香り?……多分、ボディソープかな?」
「なんの香りですか?」
「ローズだよ」
「薔薇ですか」
「うん」
見上げる透子さんは僕に優しく微笑む。
――綺麗だ……。
僕はもうのぼせてるのかドキドキしていて、違う意味で熱いのか分からなくなっていた。しばらくそんな状況が続き、気付くと僕は睡魔に襲われた。
* * *
「あ、起きた? どう? 調子は」
透子さんはまだ僕を膝枕してくれている。
大分楽になったようだ。
「楽になりました。……今、何時ですか?」
「えっとね……」
透子さんは壁にかけられている時計を確認する。
「9時だよ」
「もう、そんな時間……」
――せっかく2人で来れた旅行なのに……。
なんだかやるせない気持ちになってしまう。
「ご飯、食べられそう? 宿の人が持ってきてくれたよ」
「はい、食べられます」
僕は起き上がりテーブルへ向かう。テーブルには2人分の食事がある。
「あれ? 透子さん食べてないんですか?」
「あ、うん、一希くん起きるまで待とうと思ったから」
「ありがとうございます。でも良かったのに……」
「一緒に食べたかったから」
「ありがとうございます」
「食べよう」
「はい、いただきます」
食事は普通に日本食の定食だった。白米にみそ汁、肉じゃがや焼き魚などがそろっていた。
「ごちそうさまでした」
2人で食べて終えてくつろぎながら、僕と透子さんは2人で並んで寄り添っている。
「時間経つの早いね……」
「もう、10時半なんですね」
「ね」
明日には帰らなければいけない。
「一希くん、ありがとう」
「……何がですか?」
「こうして一緒に来てくれて」
「お礼を言うのは僕の方ですよ」
「え?」
「今は友達ですけど、僕を好きになってくれてありがとうございます」
僕はペコリと頭を下げた。今更ながらあまり見ていなかったけど、改めて見ると透子さんは宿の浴衣を着ていた。紺色の浴衣が透子さんの白い肌を引き立てている。
――美しい。
なんだかドキドキしてきた。
「私のほうこそ、好きになってくれてありがとう」
僕達は何となく見つめ合い、良い雰囲気になった。僕達の顔が近づく。このまま流れで……けれど僕は今は友達だと思い出した。
――駄目だ!
「あ、そうだ!」
突然立ち上がり僕は話を振る。
「どうしたの?」
透子さんは驚いている。良い雰囲気を壊したのだから仕方ない。
「布団、どっちが良いですか?」
「え? う〜ん……別にどっちでも良いよ」
「それなら、透子さんは窓のほうで良いですか?」
「うん」
「それじゃあ、そういうことで。そろそろ寝ましょう!」
「うん……そうだね」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
僕達は電気を消し、眠りについた。とはいえ僕の鼓動は早く、ドキドキしていてなかなか寝付けなかった。




