温泉宿
宿は人間界の温泉宿によくある旅館と同じようになっている。木造平屋造りだ。僕が戸を引くとカラカラカラと耳障りの良い音が鳴る。
「いらっしゃいませ、透子様に一希様」
出迎えてくれたのは、頭に耳の生えた女性だ。何の耳だろう?と思い、近付いて来た女性をチラリと見ると、猫の耳らしい。
――猫……か。
彼女は僕達に笑顔を向け声をかけてきた。
「雪乃様よりお話は伺っております。透子様と一希様は未来の伴侶だそうで……」
「え? おばあちゃんったら、何を……」
「そうです、まだ僕達そんな話はしてません」
僕達は慌てて説明をする。
「これから交際するのですね。でも、将来的にご結婚される可能性もありますよね?」
「まあ……そうね」
「……はい」
「なら、良いではありませんか?」
「良いのかな?」
「良いんですかね?」
僕達はなんだか上手く乗せられているような気がしていた。彼女に着いていき襖の部屋へたどり着く。中へ入ると畳の香りを感じる。僕達は部屋の隅に荷物を起き、中央にあるテーブルの下に置かれている座布団に座った。
「後ほどお食事をお持ち致します。お布団は、一組でよろしいですか?」
「え……?」
僕は思わぬ発言に言葉を失う。
「あの、二組でお願いします」
透子さんが変わりに返事をしてくれた。
「そうですか?」
悪気はなさそうなので仕方ない。彼女が去ると、僕はテーブルに置いてあるお茶を入れてみる。ティーパックのお茶で香りが緑茶だ。
「透子さん、どうぞ」
「ありがとう」
透子さんと僕はお茶を飲むと、体の緊張が和らぐ。
「静かですね……」
妖怪の世界にもテレビがあり、設置されてはいるものの、僕も透子さんも静けさを感じていた。
「そうだね、いつも何かの情報を見たり聞いたりしてるからね」
今はスマホも持たない。ただ、ここにいる時間をじっくり味わいたいと思った。
しばらく静けさを味わい、2人してうつらうつらしかけた時に、僕は何となく疑問を感じた。
「透子さん、妖怪の世界の時間の進み方って人間界と同じなんですか?」
「うん、同じだよ。今は……6時半だね」
透子さんは腕時計を見て時間を教えてくれる。僕は普段はスマホで時刻を確認している為、時計は持っていない。
「ありがとうございます。そろそろ、お風呂に行きますか?」
「そうだね」
* * *
僕達はこの宿自慢の露天風呂へ来ていた。女湯男湯ときちんと分かれている。
――分かれていて良かった。流石に恥ずかしくて一緒に入るとか無理だし。
湯船に浸かりながら僕はそう思っていた。
露天風呂は岩に囲まれていて、あらゆる妖怪達も入っている。ここにいるのは、皆透子さんの知り合いらしい。
「人間がいる?」
「ああ……透子様の恋人だよ」
周りで何やら囁き声が聞こえる。人間の世界も妖怪の世界も同じだと感じる。いるはずのない人がいたら気になるはず。
「君……透子さんの恋人なの?」
その時、突然僕に声をかけてきた男性がいた。




