謎の美女
リリーが去るのを見送ると、玲士が話しかけて来た。
「で? どんな人なんだよ? 美人?」
「うん、ものすごく美人」
「へぇ……どんな感じなんだ?」
「黒髪に雪のように白い肌の美人だよ。雪の降る中に立っていたんだ。見た感じ20代半ばから後半って感じかな?」
「まるで雪女だな。雪の中にいたとかさ」
「雪女なんて、たんなる伝説だよ」
「いいや、そうとも言えない。全国各地にある伝説は、全くのでたらめって訳でもないんだよ。昔から狐に化かされたとかあるだろ? それに関東のこの地域にもそんな話がある……」
玲士はそういう系の話が好きらしい。僕はこの目で見ないものは信じられない。
「じゃあ、河童や天狗、山姥、いわゆる妖怪とかいると思ってる?」
「まあ、いてもおかしくはないよ」
「でも、彼女は人間だよ」
「何でそう言い切れるんだ?」
「……何となく」
とは言ったものの、本当は確信は持てない。
きっと人間だと思いたい。僕はそう思っていた。
それから1週間ほどして、僕は高校近くの小さな飲食店でバイトを始めることにした。白い壁に赤い屋根の可愛いらしい見た目の飲食店で、チェーン店ではないが和食に洋食何でもある。
店長と面接をして、今日から初めてのバイトが始まる。内心ドキドキだ。僕は飲食店の裏口から入るとスタッフルームに人影が見えた。
「失礼しまーす」
黒髪を1つに束ねた女性が後ろを向いて椅子に座っている。僕の声に振り向いたその女性は僕を見ると、優しく微笑んでくれた。
「あ……」
言葉が消えてしまったのも無理はない。あの時の女性が目の前にいるからだ。
「新しいバイトの子?」
彼女は椅子から立ち上がり僕に近付いて来ると正面に立ちながら、柔らかく透き通るような声で僕に尋ねてくる。
「……はいっ。僕は近田 一希です。よろしくお願いします!」
「ふふっ。私は白雪 透子です。よろしくね」
そう言って微笑んだ彼女を見た僕は、今すぐ天に召されてもおかしくないほど、舞い上がってしまった。
――白雪透子さん……名前までも綺麗だ。でも、僕のことは覚えてないみたいだな。
少しだけがっかりしながら、僕は店長へ挨拶に行く。
「ここに事務室があるから……店長?」
透子さんが声をかけると店長が出てきた。
「ああ、近田くん、よろしくね。白雪さん、色々教えてあげて?」
店長は背が高く渋い声をしている。
「分かりました」
「近田君は、ウェイターをしてもらうかな? 今人手が足りてなくて」
「はいっ。分かりました」
店長は僕にそう言って紺色の制服を渡して来る。
「サイズは……Мかな?」
「はい、Мです」
* * *
僕はウェイターの仕事を他の先輩に教わり、仕事を始めることが出来た。それから数日が経ち、何とかウェイターをこなしていると溢れかえっていた客が引いた。
ふと厨房の方を見ると透子さんが中で作業をしている。
――素敵だなぁ……。
そんなことを思いながら透子さんを見てると、後ろから声をかけられる。
「何見てるの?」
「うわっ」