薬膳
どうやら透子さんのおばあさんは熱があるらしい。それなら……と、僕は持ち歩いていた薬膳の本をカバンから取り出す。
「えーっと……確か……」
僕は本を広げながらページをめくって行く。
「風邪……熱……」
パラパラとめくって行くうちに、症状に適した項目を見つけた。
「これかな? 透子さん」
「何?」
透子さんは僕に呼ばれて本をのぞき込む。
「これ、生姜なんですけど、雪女が食べても大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。普通に食べるよ」
「生の生姜は、発熱の時に発汗作用により熱を冷ます……」
「あとは……レンコンかぁ」
「レンコンは咳止めにも効果がある……」
「本当は人間なら体質に合った物を取り入れないといけないんですけど……例外ですからね」
「うん、妖怪だから人間とは違うし、でも試すしかないよ」
「そうですね、試しましょう!」
* * *
僕は本に書いてある通りにレンコンと生姜をすりおろし、蜂蜜を加えて飲み物を作った。
――蜂蜜も喉にも良いし、食欲を増す効果もあるらしいから。
飲み物をお鍋に入れて多めに作り、僕はおばあさんの所へ持って行く。とはいえ、初対面の僕が持って行く訳にもいかないから、透子さんと持って行くことになった。
「おばあちゃん?」
透子さんは音を立てずに襖を開ける。おばあさんは、寝苦しそうにしながらも眠っているようだ。部屋を開けた瞬間、ものすごい冷気が出てきた。
――うわっ! 冷凍庫?!
そう思ってしまうくらい寒かった。
おばあさんは透子さんが入ると、眠りが浅いのかすぐに目を覚ました。
「透子?」
「うん、あのね、これ飲めるかな?」
「それは?」
「蜂蜜とレンコンと生姜のお茶。風邪に効くみたいだよ」
「ありがとう……その子は?」
体を起こしたおばあさんは、僕に視線を向けた。
「えっと……友達の一希くん」
「ああ……その子が? これもその子が?」
「あ……はい。僕が作りました」
そう言うとおばあさんは優しく目を細めて微笑んだ。おばあさんだけど、透子さんや紗雪さんともやっぱり似ている。
「頂くよ」
おばあさんは一口お茶を口に入れた。
「これは、良さそうだね」
一口飲むとおばあさんはそう言ってくれる。
「良かったです」
「一希くん、ありがとう」
そう言ったおばあさんは、眠気に襲われたのかあっという間に眠ってしまった。
僕はあまり長居してもと思い帰ることにした。
「ごめんね、食事も用意出来なくて……」
「気にしないで下さい。おばあさん、良くなると良いですね」
僕は透子さんに優しく微笑んだ。
「うん、ありがとう」
透子さんと2人で玄関で話していると、紗雪さんが現れた。
「一希くん、ありがとうね」
「いいえ、良くなると良いですね」
僕は紗雪さんにも同じことを言った。
「ええ。きっと大丈夫よ、とても気持ちよさそうに眠っているから」
「そうですか、お大事にしてください」
「ありがとう」
透子さんと紗雪さんは同時に返事をした。透子さんは玄関の外まで見送ってくれると、僕が見えなくなるまで手を振ってくれていた。




