離れても
「東京? そっか、進学するんだもんね」
「はい。来年の春、薬膳の学校へ行きます」
僕は何となく黙り込んでしまう。透子さんも何も話さない。透子さんは目線を伏せて少し無言になった後に、微かな笑みを浮かべる。
「夢に向かって進んで行くんだもんね。正直離れるのは寂しいけど……応援してるからね」
「はい、ありがとうございます。卒業したら帰ってくるので、それまで待っていてくれますか?」
「もちろん。片道電車でどのくらいかかるの?」
「2時間くらいです」
「中距離かぁ……」
「会いたくてもすぐに会える距離ではなくなりますからね」
「うん……私も頑張るね。近田くんに負けないように勉強始めようと思ってるの」
「勉強ですか?」
「うん」
「私はハーブの勉強しようと思ってるの」
「ハーブですか。ハーブも色んな薬効があるんですよね?」
「うん。詳しくは知らないけど、これから独学で勉強しようと思ってる」
「そっか……透子さんもこれから勉強するなら、僕ももっと励みます」
「お互い、頑張ろうね。中距離になっちゃうけど、ビデオ通話とかもあるしね」
透子さんは僕に微笑みながら話をしてくれる。
「はい!」
そんな話をしているうちに、祭りが終わった人達がお店に入って来た。僕達は食べながら話をしていたけれど、もうすでに食べ終えている。
「お客さん増えて来ましたし、出ますか?」
「うん、そうだね」
透子さんと僕は辺りを見渡して出ることにした。
* * *
友達に会った僕が透子さんを連れて逃げた為、後日友達に根掘り葉掘り聞かれた。リリーもその場にいて、不機嫌そうな顔をしている。僕にとってはただの幼なじみなのに、何でそんなに不機嫌になるのか分からない。
リリーだって僕のことは兄妹のように思っているはず……そう思っていた。
「一希、ちょっと良い?」
リリーは僕の服をつまむ。
「うん、何?」
「ちょっと来て」
「え? どこへ行くの?」
「良いから。他の人は来ないでよね!」
他の友人達はリリーが怒ると怖いため、大人しく言う事を聞いた。僕はリリーの後を着いて行くと、人気のない屋上へ辿り着いた。
「こんな所まで来てどうしたんだよ」
屋上は澄んだ青空が広がっていて、暑い空気の中時々吹く風が心地よい。
「あの人と付き合ってるの?」
リリーは探るような目をして僕を見る。
「付き合ってないよ。友達」
「……そう。それなら、私は?」
「え?」
「私と付き合ってほしいの」
「え? いや、だってリリーは幼なじみで、妹みたいなものだし……それに僕は、透子さんが好きだから……」
「何で?」
「え? 何でって言われても」
「私の方がずっと長く一緒にいたのに……何で、最近現れた女に取られなきゃいけないの」
リリーはいつもの強気な態度ではなく、今にも泣き出しそうな瞳をしていた。
「ごめん、リリー」
「謝らないでよ……」
「だって、他にどうしたら……」
「私を好きになってよ」




