本心
僕はこの場から逃れたくて、透子さんの手を無意識に掴んだ。
「近田くん?」
透子さんの声が聞こえたけど僕は何も答えず、手を引いたまま祭りの中へどんどん進んで行った。透子さんの小さな手も柔らかな感触も体温も僕は感じることが出来ずに、見晴らしの良い所まで来た。周りにはまばらに人がいる。カップルが多い。
「近田くん!」
「あ」
「どこまで行くの?」
「ごめんなさい」
「え?」
「こんな所まで連れてきて……」
「ううん、それは良いけど……どうしたの?」
僕はどう答えたら良いか迷い、けれど嫉妬や怒りを見せたくはなくて、少し黙り込んでしまう。
「……白雪さんはとても綺麗です」
周りの賑わっている声が遠くに感じる。周りなんてもう、どうでも良い。花火も上がり始めた。でも、僕は透子さんだけを見つめる。
「近田くん?」
少しだけ揺れてる瞳が僕の瞳に映る。
「好きなんです。僕は、透子さんのことが好きです」
透子さんも僕だけを見つめる。小さくため息をついた透子さんは、観念したように微笑んだ。
「……言うつもりなかったのになぁ」
「え? 何を?」
「私も、近田くんが好き」
僕は気付くと透子さんの手を握っていた。
「本当ですか? からかってたりとか、冗談とか……」
「……違うよ。本気です」
透子さんはうつむいてしまう。
「白雪さん……行きましょう」
「え? どこへ?」
「祭りなんてもう、良いです。それよりも今は話がしたいです。駄目……ですか?」
僕は透子さんにすがるような瞳で見つめる。
「良いよ。行こう。どこへ行く?」
「そうですね……近くの飲食店へ行きませんか?」
「バイト先へ?」
「いいえ、他のお店に」
「だよね、うちのお店でこんな話出来ないよ」
安心したように透子さんは笑って見せる。
* * *
僕達は飲食店へ入ると少し気持ちを落ち着けた。胸が一杯で食欲なんてないけれど、とりあえず飲み物と軽食を注文した。
「……話の続きなんですけど」
「うん」
飲食店には僕達と数人の客しかいない。ほとんどの人達は祭りへ行っているようだ。きっと、祭りが終わったら客が増えるだろう。
あまり人が増えても困るから今のうちに話したい。
「僕達、同じ気持ちってことで良いんですよね?」
「うん、そうだね」
「僕と、付き合ってもらえますか?」
「……それなんだけどね、まだ近田くん高校生じゃない? だから卒業するまでは友達ってことにしない?」
「え? 駄目なんですか?」
「う〜ん……駄目じゃなくて、高校生と社会人の恋愛って世間的に良く思われないことが多いから」
「世間の目なんて」
「家族に話せる? 年の離れた女性と付き合ってるとか」
「話せます」
「でもね、未成年なんだよ」
「それは……そうですけど」
「高校卒業したら付き合おう? 卒業したからって気持ちがなくなる訳じゃないんだから」
「……そうですね。でも僕……卒業したら東京へ行くんです」




