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雪の日に

 夕暮れ時、僕は凍てつくような空気に凍えながらいつもの通学路を急ぎ足で帰っていた。空からは白い雪が舞い降りて来る。ふと、空き地を見ると肩まであるストレートの黒髪を風になびかせながら、雪の中空を見上げている女性がいた。


――え? こんな雪の中。寒くないのかな?


 白いコートを着ているものの、傘を差していないその女性は、どこか淋しげな表情を浮かべながら微かに微笑んでいた。思わず立ち止まり見ていると風により彼女の顔が露わになる。やがて彼女はこちらに気付き視線を向けた。


――あ、どうしよう。


 まるで雪の精霊のように白い肌に黒いストレートの髪。とても美人だと思って見惚れてしまう。

 すると彼女は軽く微笑みながら僕を見つめた。


 僕はこの日、彼女に心を奪われた。

 それからというもの僕の心の中にあの日の女性が住み着いてしまった。けれど、僕はまだ自分の気持ちに気付いていない。



* * *



「はぁ……」


 授業に身が入らず、食事もあまり喉を通らず、気づくとボーっとしていた。


「どうした? 一希(いつき)? 体調でも悪いのか?」


 友達の星野 玲士(ほしの れいじ)は心配そうに声をかけて来る。彼は高2にしてはガタイが良く、体つきもしっかりしている。


小柄で華奢に見えると言われやすい僕としては羨ましい限りだ。


「ああ……僕、病気なのかな?」


「え? 病気?」


「うん。食欲はないし、眠れないし、女の人が頭から離れない……」


 話を聞くうちに玲士は何やらピンと来たようだ。


「ああ……ある意味病気だな」


「え? やっぱり……じゃあ、保健室に……」


「保健室に行っても治らないよ」


「ええ? どうしたら……」


「好きな人が出来たんだよ、一希」


「え? 僕が?」


「うん。やっぱり気付いていなかったんだな」


「恋……」


「ねえ、何の話してるの? 今好きな人とか聞こえたんだけど?」


 突然僕の背後から聞き慣れた幼馴染の声が聞こえて来た。


「リリー? 何だよ、盗み聞きなんて止めろよ」


 玲士が驚きながら言うと井上 (いのうえ)リリーは心外とばかりに詰め寄った。


「貴方達が、私に聞こえるような大きな声で話してたんでしょ?」


 彼女は僕の家の近所に住んでいて、父が日本人、母がアメリカ人のハーフだ。


「そんなに大きな声で話してないけど……」


「とにかく! 誰なの? その一希の好きな人って」


 仁王立ちをしたリリーは少しだけ不機嫌そうな様子だ。


――どうしたんだろう? リリー。


 僕は不思議に思ったものの、特に気にすることなく話を続けた。


「どこの誰かは分からないよ。この間出逢ったばかりだし……」


「ふぅん?」


 何故か疑いの眼差しを僕に向けながら、くるりとリリーは背を向ける。


「ま、良いけど」


 そう言いながらリリーは教室を出て行った。

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