勇者と魔王、異世界へ
俺は佐間川 仁。いろいろあって日本から異世界に召喚されて、数々の困難を乗り越えて今、魔王と相打ちになっている最中でございます。正直に言うと、超痛い。マジで。泣きたい。だって魔王の手が俺の腹突き破っちゃってるもん。これで痛くないなんて言うやついたら頭カチ割る。
まぁ、魔王も魔王でめっちゃ痛そうではある。俺が刀で心臓部を貫いているからだ。普通なら即死なんだけど、何せ魔王が相手だから尋常じゃない生命力である。
あ、ちなみに魔王は大体身長170cmで、白い肌と白銀の髪、蒼い瞳が特徴の超絶美人である。異世界に召喚されてすぐの頃の俺ならば倒すのを躊躇うが、コイツは、許せないことをしたので絶対に倒すと決めている。
「フハハハ!!勇者よ、我は、グハッ!?まだやれるぞッ!!」
血を吐きながらよく喋る事で。
「その割には、随分と、ウグッ!?足が震えているじゃないかっ!!」
俺も俺でよく喋れたな。と思う。
「なに、武者震いというものだ」
「早よ死んでくれ。そうすりゃ楽になる」
「だが断る」
「お前は俺の育てた大切なドラゴンを殺したからな!!断ると言われてハイそうですかと言うわけねぇだろ!!」
貫いた刀を勢いよく引き抜く。それと同時に俺の腹に刺さっている手を引き抜かれた。
「グゥゥゥゥゥッ」
「ァァァァァッ」
お互い、血飛沫が凄いことになっている。モザイクものだ。
「はぁ、はぁ、相打ち、か」
魔王が倒れた。
「勝った、が、俺も死ぬ、か」
そして、俺の意識は途絶えた。
「ほれ、起きるのじゃ」
「ほぇぁ?」
あまりにも唐突だった。意識が途絶えた後、つまり、俺が死んだ後、暗闇の中で彷徨っていたのだが、あたりが急に明るくなり、景色が変わったのだ。
そして、目の前にはヨボヨボの杖をついた老人がいた。見かけによらず、すげぇなこのじーさん。めっちゃ強いぞ?
「ふむ。起きたようじゃな。早速じゃが、お主らには別の世界を救ってもらうぞい」
フッ。そんなの、答えは決まっている。
「だが断る」
嫌すぎる。もうこれ以上ないぐらい働いたから休みたいっす。引きこもりてぇのであります!!
「残念じゃが、拒否権はない。安心せい。体や魔力などは全て引き継がれる。年齢もな。じゃからよろしく頼むぞい」
「ちょっと待て。何もよろしくねぇぞ?」
「それとな、お主と共に世界を救う仲間は、あやつじゃ」
このジジイ、人の話聞いてねぇ。勝手に話進めてるんだが?
んで、どこ指指してるんだ?
「えーっと、ジジイよ、俺は幻覚を見ているようだ。俺と一緒に世界を救う仲間って言われて、指を指した先には魔王がいるんだけど?」
あら不思議。何とそこには魔王がいるではありませんか。
「幻覚では無い。本物である」
「何だその顔は。我では不満か?」
「さっきまで殺し合いしてた奴だぞ?信用できるとでも?」
「良いではないか。死合いは互いの立場ゆえにだが、今はその立場も無いのだ。気楽にいけば良い」
すげぇメンタルしてんのな、この魔王は。
「とはいえ、俺は戦闘が好きな狂ったやつじゃねぇんだ。死んだ後もすぐに戦いが続くなんて嫌に決まってるだろ。せめて少し休ませてくれ」
「安心せい。世界を救ってくれと言ったが、すぐに救う必要も無いのでな。5年はのんびりできる時間はあるぞい」
「どういうことだ?」
「まだ正式に世界の破滅へ導く者達が現れないからじゃ。その者らが現れるのがワシの見立てだと6年後じゃ」
うーむ、5年はゆっくりできる時間があるのか。
「仮に俺と魔王が異世界に行くとしてだ、俺と魔王は救世主として異世界人に認知された状態で行くことになるのか?」
勇者やってて思った。肩書きを皆んなに認知されているということは、やらされることが多いということだ。
「いや、認知はされていない状態じゃな。その方がお主らも動きやすかろう?」
「うん。なら、いいか、俺は異世界に行く」
「やっと決まったか。勇者よ、我は思っていたのだが、魔王と勇者という立場がなければ、互いに良きライバルになれると。だから、今後は味方として、お互いを高め合おうではないか」
コイツは本当に魔王なのか?と思うぐらいまっすぐな瞳でそう言ってきた。その言葉に嘘はないことは分かる。つまり、これは魔王なりの「よろしく」なのだろう。
「あぁ。これからよろしくな、魔王」
「うむ、では、異世界へ旅立つのじゃ。言語や読み書き等はワシの方で何とかしてやる。お主らの健闘を祈るぞい」
そう言うと、じーさんは消え、俺たちは眩い光に包まれた。
「眩しかったな」
「うむ、まったくだ」
光に包まれて数秒後、俺と魔王は森の中に立っていた。初期スタートミスってね?と思った。
「さてと、この後どうするか?」
「勇者よ、とりあえず自己紹介が先だと思うが、どうだ?この先、互いを呼ぶのに、勇者とか魔王だと面倒であろう?」
「そうだな。じゃ、自己紹介するか。俺の名前は、ジンだ。一通りの武器はかなりの熟練度で操れる。魔法は氷魔法が得意だ」
名字とか言うと、呼びにくそうなのでジンだけにした。前の世界でも、ジン、て呼ばれてたし。
「うむ、ジンと。覚えたぞ。次は我だな。我が名はクロンだ。基本的に何でもできるが戦闘では拳や脚を用いた技が得意である。全ての魔法を使えることと、状態異常や呪いは効かぬ」
流石は魔王、いや、クロンだな。性能がぶっ壊れてる。
「とりあえず、今後の方針を決めるか。俺の考えを言うと、まず、森で金になりそうなモンスターを狩ったり、植物等を採取したりする。そして、それを人間のいる街で換金して生活する、というのを最初の目標としたい」
「うむ、それで良かろう」
「それと、俺達はあまり目立たない方向で動くか?それともこの世界で冒険者にでもなって有名になり、活動の幅を広げるか?どっちがいい?」
「有名になると、逆に動き難くなるのではないか?現に、勇者や魔王では自由に動けない場面があったと思うのだが」
「いや、冒険者の場合だと、有名になればなるほど、一般の者が立ち入ってはいけない色々な場所に合法的に行けるんだ。冒険者ではない者が、行ってはいけない場所に行ってバレた場合、最悪牢屋行きで、それこそ自由が効かなくなる。依頼が入ると縛られるが、冒険者は勇者とか魔王とは違って好きな時に依頼を受けて好きなだけ休めるっていうメリットもある」
「目立たない方向で動くことのメリットは何だ?」
「俺達の実力を隠したまま敵に攻撃できること、有名にならないから逆恨みや人との厄介事に巻き込まれる心配が少なくなることだな」
うーむ、とクロンが顎に手を当てて考える。こいつ、めちゃくちゃ美人だから絵になるんだよなぁ。
「それを踏まえた上で、我の考えを言うと、我は冒険者になった方がいいと思う。こそこそ動くのは性に合わぬし何より面白くない」
「よし、そしたら冒険者になる方向で行くとするか」
「了解した」
こうして、俺とクロンの異世界を救う旅が始まった。
〜魔王クロンのプチ日記〜
我は今日、勇者と相打ちになり、いろいろあって異世界を救うことになった。勇者の名が「ジン」ということが分かった。今後、気を付けたいのは、ヤツは男で、我は女であることから、襲われる可能性があることだ(どういう意味かは言わぬ)。まぁ、ひとまず今後はそう言った意味での警戒もしておこう。
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