ボツストーリー2
ボツストーリー1の続きです。
眩しい光が目を覚ます。
そこには、半透明の老婆が立っていた。黒髪と水晶のような瞳を持つ細い身体の老婆だった。
その虚な瞳は僕らを襲ったあの霧の魔物らに似ていた。
まさに幽霊のようだった。
「おはようセト・ソフィール」と老婆は僕に話しかけた。
あたりは深い霧に覆われていたが、僕らのいる場所だけは別だった。
ドーナツ上に霧が晴れていた。
「貴方は?」
幽霊のような老婆は微笑んで答えた。
「お前をここに呼んだのはワシだ」
僕は周りを見回し、草の上で眠るカレンとグライドを見つけた。
「その者らは今は眠ってもらっておる」と老婆は語った。
僕は次に自分の右腕を見つめる。やはり、切り落とされた右腕はそこにはなかった。
けど、僕は生きていた。
おそらく目の前のこの人…いや人って言ってもいいのかは分からない、この老婆に。
「僕らを助けてくれたのは貴方ですか?」
老婆は少し考えた後、答えた。
「助けたと言えばそうだし、襲ったと言えばそう」
「どういうことですか?」
すると、目の前の霧から突然僕ら21班を襲った霧の狼と人間の姿が浮き出てくる。
「お前に彼らを仕向けたのはワシだ。どうしてもこの状況を作りたかったのだ。
謝罪が欲しければ謝る」
…。
どういうことだ…?
寝起きで頭が回ってないせいか?
今…仕向けたとか聞いた気がする。
僕の右腕を切断した刺客を仕向けたと自分で言った気がする。
…逃げるべきか?
いや、逃げられるか?
この感じ、召喚術は多分、まだ使えない。
足で走ることになるだろう。
カレンとグライドの二人の意識もない。
例え僕だけ一人逃げられたとして二人はどうする?
ここに置いていくことになる。
今はとりあえず、このババアの話を聞いてみるか。
もしかしたら友好的なのかもしれない。
…片腕落とされたあとだけど。
「…謝罪はいい。話を続けろ」
「ワシらの目的は、お前なのだ。
セト・ソフィール。我らはお前の右腕となりたいのだ」
「右腕?
アンタ達に切断されたばっかなんだけど?
なに、なんかのギャグ?
怒ればいいの?」
老婆は笑みを浮かべて人形の幽霊の一人にハンドコンタクトでの合図をする。幽霊は深い霧の中から古びた布に包まれた何かを持ってきた。
細長い棒状の何かだ。
僕の前にそれを置き、離れた幽霊。
「開けてみい」
「…これを?」
「そうだ」
目の前の何かからは隠されても分かる高次元の魔力を感じられる。
僕は意を決してその布を縛り付けている紐を解いた。
現れたのは、遺体だった。
右腕だけの人の遺体。
干からびた、けれども腐らずに、そこに残った人の遺腕だった。
「それはカラドールと呼ばれる半神の遺体の一部だ。
老婆らしく昔のことを話そう。カラドールは父なる神と人の少女の間に生まれたハーフゴットだった。
人々を教え導いたカラドールだったが、死んだ後が問題だった」
「カラドールの遺体は彼の持つ強力な力が残っていた。
死体の力を巡って人の間で争いが起きた。
長い争いの末、人は疲れ最後は分け合うことで決着がついたのだ。
カラドールの身体はそうしてバラバラにされた」
カラドール…知らない神の名だ。
まぁ、僕がそんな博識って訳でもないけどさ。
「この島が今のような奴隷島になる前はワシらヘイブンの民が暮らしていた土地だった。
人の悪意からカラドールの右腕を守る役割を持つ我らが暮らす島だった。
しかし、30年前に教団が現れワシらは皆殺された。
今じゃワシらは亡霊だ。カラドールの魔力にすがりなんとか魂を保持してるだけの亡霊」
「で、その亡霊が、僕になんのようなんだよ?」
「端的に言おう。
セト・ソフィール。
お前にはこのカラドールの右腕を取り込んで貰う」
「…はぁ?」
取り込む?
これを?
この右腕を?
え…こわ、嫌だ。
「やれ」
「え?ちょっ!」
老婆は戦士達に命令すると二人の男が僕の背中を抑えた。
彼らは僕の身体を抑え、その遺体と触れさせようとした。僕は抵抗できず、遺体に触れ、老婆はそこから消えた。
真っ白な光に包まれ、それはそこにいた。
「やあ」
「やっと会えたね、
私が、カラドール、よろしく」
先程まで老婆が座っていたそこには話す右腕がいた。
手のひらから口が開き、歪な目が浮き出た異形の右腕が重力を無視してふわふわと浮かんでいた。
「怪我の具合はどうだい?
その傷口はまだ痛む?」
僕は自分の腕の切断面を強く抑え目の前の腕野郎を睨みつけた。
「…ッ」
「話はあのおばあちゃんから聞いたよね?
私の目的は君の右腕になることだ。
君のことは君がこの島に足を踏み入れたときからずっと狙っていたんだ。
だから色々と小細工をした。
教団の管理者の精神に干渉してキミをここに呼んだのは僕。戦霊に襲わせ君の右腕だけを切り落とすように仕組んだのも僕。
右腕は二つもいらないからね。
全ては君の右腕になる為だよ」
「僕の右腕になってどうするつもりだ?」
「今は…どうもしない。
楽しそうじゃない?」
「楽しそう?」
「ホラ一箇所に止まり続けるのって、アキアキしない?つまらない。
物事は流動してこそだと思うんだよね。
水とかが分かりやすい、池は腐るが川は腐らないように、人も物も、そして腕すらも絶えず変わり続けるべきだ。
だから、私自身も動かない死体になってるよりは人の腕になることで流動したいなって…わかる?」
「なぜ、僕なんだ?
別に腕になるだけならそこらへんの人間でいいだろ」
「それがねぇ、また難儀なことで。
適正があるんだよ。
人にはそれぞれ相性ってものがあってね。
私の遺体は適性がない人間に取り込まれると、その人間は私の神聖さに耐えきれず狂いやがては化け物になっちゃうんだ。
理由は分かんないけど、ほら半分神だから、ね。
神様パワーってやつだよ、たぶん。
ああ、もちろん、そうは言っても君より適正ある人はいるよ?
例えば彼女、ソフィアちゃん。
妹だよね、君の。
あれはいいね。
素晴らしい子宮をもっている。
彼女なら神すら産めるだろう。
だけどね、ビジョンが見えなかった」
「ビジョン?」
「そう、彼女が私を受け入れるという因果がなかった。
だから諦めざるを得なかった。
惜しいけど、仕方ないね、できないことをああだこうだ言っても仕方ないし。
ああ、別に君が嫌だって言ってるわけじゃないんだよ、君自身も私にとっては貴重な身体で…」
「もういい。
それだけか?」
「ん?」
「お前を受け入れることにメリットはないのか?」
「あるよ、もちろんある。
まずはその失った右腕が復活する。
もちろん私のだけど、けど悪いもんじゃない、元のより優秀だ。
あとはそうだな。
強くなれるよ。
簡単にパワーアップできる…。
復讐を果たせるくらいには」
復讐。
「…なぜお前がそれを知ってる?」
「神だからね。
未来を視れるんだ、ああ、他にも色々ね。
人のプライベートを知るのが好きな覗き魔なのさ」
…サイテー。
コイツ純粋にクズだ。
あー。嫌いなタイプだなー、コイツ
「いいじゃないか、これから同化する僕らだ。
互いの秘密くらい知ってもいいだろ?」
「じゃあ教えろよ、お前は、何を企んでる?」
「嫌だなあ、簡単には言わないよ。
そっちの方が面白いでしょ、ストーリー的に」
「…なら拒否するだけだよ、悪いけどお前は信用できない」
「…えーいいの?
キミらの今後の脱出計画のためにも私の強さは必要だと思うけどなぁ」
「お前みたいな得体の知れないもの、取り込めないし、作戦にも組み込めるか。
リスクが高まるだけだ」
「傷つくなぁ、その言われよう。
えーん、しくしく。
しくしくついでにあの二人を殺しちゃおうかな?
確か…グライド君とカレン君、仲良し2人なんだよね?」
「…お前っ…」
コイツ、本性を見せやがった。
「あは!ははははは!
一気に上がった!こりゃ面白いなー。
28%から
99.7%ってところか!
うん、うん、やっぱりこういうのが一番きくねー!
人間って、愚かでサイコーだなー!
本当に、可愛くて仕方ない!」
「殺してみろよ、お前を先に殺してやる」
「じゃあ試してみようか。
兵隊さん、まずは赤髪の子の腕をセト君と一緒にしてあげてー!」
幽霊の一体は命令に忠実だ。
寝ているカレンに向け、剣を振りかぶった。
「っ!やめろ!
分かった、お前の腕を使ってやる。
それでいいだろ!」
僕の言葉に幽霊兵の剣がピタリと停止する。
腕やろうは邪悪な笑みを浮かべ喜んだ。
「ふふ、はい毎度ありー!
限定品だから、大切にね。
あと、いわくつき」
「黙れ」
「おー、怖い怖い。
怖いからさっさと初めよっか」
腕は浮遊し、切断面を合わせられる位置に移動する。
「ほら繋げて繋げて」
僕は腕を持ち上げて、躊躇する。
「…精神を乗っ取ったりしないよな?」
「…しない!しない!はい一気!一気!」
覚悟を決め、切断面を合わせる。
腕は奇妙な感覚で僕の身体に張り付いた。
腕の大きさは接続の段階で僕の身体の形にそうように変化。
最後は、元の体型通りになった。
やたらと白い右腕の色以外は。
精神的な変調はない。
心配していた身体を乗っ取られたりとかもなかった。
突然に辺りを覆っていた霧が晴れた。
あの自称神カラドールも静かになり、幽霊も消え。
辺りは平穏を取り戻したのだと分かる。
その後、カレンとグライドが起きた。
カレンには切断された腕が何故くっついてるかをしつこく聞かれたが知らない、起きたらくっついてたの一点張りで通した。
聞かれたって、僕自身でも何が起きたかあまり分からないのだから仕方ない。
グライドはカレンほど僕に聞かなかったが、
僕のことを信用していないのは明らかだった。
その後、僕らは目的の高山に辿り着いた。
話を聞いてみると魔物というのは例の霧の違反のことだったよう。
消化不良気味に仕事を終わらせ。
僕ら21班は元の生活に戻った。
腕については、肌の色素が少し薄くなったくらいで
あれからおかしなことはない。
勝手に話すこともないし、僕の領分に侵入してくることもない。
ただ。
「おい、腕野郎」
昼間の休憩時間、誰にも見られていないだろう物陰で、僕は腕に話しかけた。
腕は僕の言葉に答える為、手のひらに口を作り出した。
「なに?」
「なんで、お前そんなに静かなんだよ」
腕野郎は不思議と僕が話しかけたとき以外は決して口を開かなかった。
ただの腕に達していた。
「だって君私のこと嫌いじゃん」
「…」
「え、嫌いじゃないの?」
「嫌いだよ!」
ただ、気味が悪い。
コイツの沈黙は気持ち悪い。
何を考えてるか分からないからこそ、不気味だ。
「君のためを思ってだよ。
喋るのは好きだけど、主人の不快を買ってまでではないからね。
それに腕が話してるところを誰かに見られたら目立つし。
まぁ、そういうことだよ」
「…」
コイツの中に僕を尊重する気持ちがあることに驚きだった。
「…ああ、そういえば。
明日だね、約束の作戦日は」
腕の言う通り、イシェトとの会議から明日でちょうど2週間が経とうとしていた。
つまり、明日の夜が決行日。
「きっと、楽しい1日になるよ。
血みどろの地獄になる」
腕はケタケタと笑い、
不穏な言葉を残して口を閉じた。
本作の更新はこれにて終了いたしました。
ここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。
今後も執筆活動は続けていくつもりですのでまたどこか、別の作品でお会いできる日を楽しみにしております。




