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ボツストーリー1

思うところあってボツにした話をここで供養します。




早朝、そこはペルディシオの中央広場。

周囲には巨大な石造りの神殿がそびえ立ち、その前には広場が広がる。奴隷たちは整然と並べられ、ソディス教団の司祭たちが壇上に立っていた。

今日は月に一度の儀礼の日。

教団の大司祭、ヴァディス・ドミナントが司祭たちの中央に位置していた。


ヴァディス・ドミナント。

皴の目立つ老顔に白の顎髭。

袖の広い純白のローブを纏った、ここの奴隷ならだれでも知っているペルディシオの最高監督者だった。


朝霧の中、薄明かりが広場を覆う。空が次第に明るくなってきている。壇上に立つヴァディスは、僕ら奴隷たちを見下ろしていた。椅子から立ち上がり教団の象徴である巨大な金の杖を持ちあげ、ゆっくりと広場を見渡し言い放つ。


今日もまた神聖なる使命を果たす時が来た。

ソディスの教えを広め、この世に真の秩序をもたらすために、日々の労働を捧げよ!」


ヴァディスの声は拡声器を使ったかのように響き渡る。

奴隷たちの耳に無慈悲につき刺さっていた。

僕の横に並ぶ奴隷たちの大半は恐怖と絶望に満ちた目でヴァディスを見つめていた。

疲れ切った顔、病に侵された者、そして未来に希望を見いだせない者たちばかり。


「今日もまた、全力を尽くせ。

我々の努力はすべてソディスの教えに従うためのものだ。反抗する者は裁かれ、忠実な者には祝福がもたらされるだろう」


…祝福ね。

つい笑ってしまいそうになった。

いけない、堪えなければ。

こんなくだらない理由で処刑されるのはごめんだ。


ヴァディスの言葉が終わると、奴隷たちはそれぞれの持ち場に向かい始める。


「いくぞお前ら」


グライドが僕とカレンに言った。

どうやら僕ら21班も仕事に向かう時が来たようだ。



ーーー


「お前ら、突然だが、弓と剣どっちがいい?」


僕とカレンに突然そんな事を聞いてきたグライド。

僕ら二人は顔を合わせ、首をかしげる。


「何言ってんすか?グライドさん」


グライドに聞いたカレン。


「これから21班は狩りをする事になった」


「「狩り?」」


グライドは歩きながら僕らに説明する。

僕らがこれから向かうのはペルディシオの北西部に存在する高地エリア。

そこには鉱山があり、そこでも奴隷たちが働いてる。僕らは神殿建築が主だったから、僕自身としては足を運んだことはなかったけど。どうやら、貴重な鉱物資源が埋まっているらしく、それが教団の重要な資金源となっているそうだ。


そんな、高地エリアで最近魔物が発生した。


「その魔物を俺らが狩れって?」


「そのとおり、上からの直々の命令だ」


「そんなの、なんで俺らが…?

鉱山の近くで発生した魔物ならフツー鉱山の奴らが対処するでしょ?」


カレンの言うことはもっともだった。

僕だってそう思う。

なぜわざわざ長い時間をかけて神殿建設エリアにいる僕らが高地エリアまで足を運び魔物を狩らなきゃいけないのか。

不満というよりはどちらかといえば、純粋な疑問。

教団の意図が見えない。

あまりに非効率だ。


「さぁ。知らねぇよ…。

いろいろとおかしくなったのは。

うちのバカが教団に突っ込んだ例の一件からだ。

もしかしたら目ぇ付けられてんのかもな」


「げっ…!!」


大袈裟なカレンのリアクション。


「あーーっ。

ーーん!!まぁ考えようによってはプラスというか!?

いーじゃないっすか!!魔物狩り!!

毎日おんなじ作業バッカだと飽きちゃいますし!

日々のフラストレーションをパパっとここで解消しちまいましょう!!!

魔物をババっと片付けてね!」


調子のいいことをいうカレン。

この前の会議での感動をどうか返して欲しい。


「お前なあ。

相手の魔物が何体いるかも、どれくらいの強さを持つのかもわからねえんだぞ。

浮かれてると死ぬぞ」


「あ、はい。

すいません」


…こんなんで大丈夫だろうか。

最悪の場合、魔法も使わなきゃいけないかもしれない。

イシェト達との計画に支障がなければいいのだけど。


「さっきの話に戻るけど、俺は剣がいい」


「剣…。使えるのカレン?」


「ん、たぶん」


たぶんってなんだよ。

使えるか使えないかで答えろよ。


「だってさセト。剣ってなんかカッコよくね?」


カレンが笑顔で言った。

戦闘にカッコよさを求めるのはカレンらしかった。

ああ、その内死ぬんだろうな、この人は。


「じゃあ僕は弓を使おうかな。

二人みたいに力ないし、弓で援護しますよ」


弓は何かと使ってきた。

僕の故郷の村は森が近かったのもあって動物を狩りに弓を担いでよく森に潜ったものだ。

だから扱いは心得てる。

それに僕は体格が良い訳ではない、運動神経に関係する剣よりは自信がある。


あとは召喚術との兼ね合いもある。

何かあった時いつでも鎌鼬を召喚できるように僕は後衛の方がいい。


「よし、決まったな」とグライドは頷いた。

「カレンは剣、セトは弓でいく。因みに俺は剣だ。

俺とカレンで並び後ろにセト、つまり逆三角形の陣形で動く、理解したか?」


「えっww、グライドさん戦えるんすか?」


半笑いでカレンが聞く。

ちょっとの煽り、クソガキモードに入っていた。

カレンはグライドの前だとこういう態度を取りがちだ、それほど懐いてるってことかもしれないけど。


「若い頃は盗賊団の傭兵をやっていた。何人も殺してきた。

試してみるか?カレン?」


「あっ。さーせん!!

冗談じゃないっすかやだなーもう!!

マジすいません。勘弁してください、何でもします」


そんなこんな、僕らは教団員から指定の武器を受け取って、目的地の鉱山に向けて歩き出した。



ーーー


高地エリアに向かう途中、僕は道中の美しい風景を眺めていた。

険しい山道を進むにつれ、空気が薄くなり周囲の景色が徐々に変わっていく。

高山特有の寒さが肌を刺すように感じられ初めそのまましばらく歩けば不気味な霧が立ち込めているのを確認した。


僕らは霧の前で立ち止まる。

その霧は何か異様なものを感じさせたからだ。


「あの霧はなんすか?」


僕と同じく違和感を感じ取ったカレンがグライドにそう聞いた。


「分からない、だが、これからあの霧の中に入る。

おふざけはここで終わりだ、いいな?」


「毒霧とかではないですよね」


僕も続けてグライドに聞いてしまうくらい、それは明らかに不自然な白い霧だった。

僕の中の危険センサーがビンビンに反応している。


ここに入るなとそういっている。

まぁ、目的地である鉱山にたどり着くにはこの道を通らなきゃいけないから、それでも入らなきゃいけないんだけどさ。


全く嫌なもんだね奴隷の身分ってのはさ。


「だから分かんねぇって。

俺が何でも知ってると思って聞いてくんな。

とにかく入るぞ」


グライドの言葉に僕らは気を引き締める。

グライドは腕を捲り上げ、カレンは腰の剣の鞘を抑える。

僕はその霧を吸い込まないように口元を腕で隠し。

僕らは慎重に進みながら、霧の中に入った。


霧の中は白く濁り、視界がひどく悪かった。

しかし、しばらくたっても体調に変化はない。

この霧は有害ではなさそうだ。

遅効性ならまた別だけど、そんなこと気にしたっていい加減仕方ない。

腕で口を塞ぐのも疲れた。

腕を降ろす。


そこで僕らは何かに囲まれていることに気が付いた。

数体の群れだ。

正確な数と姿は霧で視認できない。


「おい、気をつけろ。囲まれてる」

グライドも気が付いていたのだろう、立ち止まり静かに警告する。

「え?なんすか?」


気が付いてないのはカレンだけだった。

僕は二人の背中を守るように背中合わせに後ろを向いた。

グライドが腰から剣を引き抜く動作とまったく同じタイミングで


「敵だッ!!」


僕がそう叫んだ。

瞬間、狙われたのは僕だった。


僕は二人みたいに剣を持っていない、背中にかけている弓もこの視界なら使い物にならず。

つまりは丸腰、敵から狙われる理由としては十分だった。


何かが僕に向け走ってくる。

地面を飛び、木々を分け突撃する。


「なッ!」


気がつけばソレは僕の至近距離にいた。

見たこともない薄青色の体毛をもった狼だった。

霧の中にうまくまぎれ、溶け込めるような色彩、おかげで接近に気が付けなかった。

狼は鋭い牙を持ち、口を開けて僕を一飲みにしようとする。


「はぁッ!!!」


グライドが僕の前に割って入った。

盗賊団の用心棒をしていたという話は本当だったのだろう。

剣は狼の開けた口の中に入り込み、首元を内側から貫いた。


「大丈夫か!?」


グライドは僕にそう聞く。


「た、助かりました、グライドさん」


「いい。それよりこれをもっておけ」


グライドは懐から動物の骨でつくられた粗末なナイフを取り出し、僕に渡した。

刃渡り5センチほどの小さなものだった。


「これは?」


「あまり深く聞いてくれんな…!

借りものじゃねえ、もしもの時の()()()()だ。

この視界じゃ弓は使えねぇだろ」


「お借りします」


僕はグライドのナイフを構える。

僕ら三人は背中合わせになり敵の攻撃に備えていた。


「悪い知らせだ」


背中越しのグライドが言う。


「この状況より悪い知らせなんかあるんすか?」


「ああ、コイツら。

生物じゃねぇ…」


生物じゃない。

どういうことだ?


「生物ってのは殺せば血なり呻きなりが噴き出てくるもんだ。

だが、こいつらにそれはねえ。

さっき一体殺してみてわかった。

コイツら、殺しても意味がねえ。

いや生きてねぇから殺せねえ」


…。


「つまりな、逃げるしかないんだよ」


ここで鎌鼬を呼ぶことを決めた。

この状況はもう出し惜しみをしている場合ではいと判断した。

グライドに魔法が使えること、インジケーターを解除していることがバレてしまうが仕方ない。

ここで誰かが死ぬよりはマシだろう。


僕はナイフで手のひらの傷を開く。

血がしたたり、詠唱を開始した。


「ゲイリ・ゴウ・ガルス・ザン」


…。

しかし、おかしい。

魔法陣が展開されない。

詠唱しても地面に落ちた僕の血はそのままに変化しなかった。

この感覚は二度目だ。

インジケーターに縛られていた時と全く同じ。


…まさか。

また魔法を封じられている?

だが、インジケーターはもう機能してないはずだ。

この奴隷島に精霊を呼べることも事前に確認している。


なら…考えられるのは、この霧か!

この霧が、魔法を無力化してるのか…!


「ああ、くそッ!!参ったな!!」


これじゃ、ただの子供(役立たず)になってしまうじゃないか。


「おい、お前ら!!合図で逃げる!走るぞ!

俺の向いてる方向だ!

いくぞ!さんにい、いち!!」


グライドが言う、

GOのタイミングで僕の右腕が切断された。

ボトリと短剣を持った腕が地面に落ちる。


僕の右腕を切断したのは、大剣を持つ大男だった。

狼じゃなく、男。

けどたぶんこいつも生きてないんだろう。

狼と同じ虚ろな目をしていた。


またこれだ。

接近に気が付けなかった。


再度、確認する。


()()()()()()()()()


「セトォッ!!!!」


カレンが叫ぶ。

僕に止めを刺そうとする大男の首を剣で切り落とし、足で蹴り飛ばした。


「しっかりしろセト!!おいっ!!」


傷口を抑え、うずくまる僕の背を抑えるカレン。


そんな大きい声出さなくたって聞こえてる。

聞こえてるけど、まずいかな。

血が止まらない。切断口をいくら押えても流れる血は止まりそうじゃない。

僕はもう助かることはないだろう。

間違いなく、致死量の出血だ。


けど、冷静だった。

もう死ぬことが決まってるというのに、

僕は冷静だった。


「走れ…。

カレン。グライド…。僕を置いて逃げろ」


口から言葉を何とかひねり出す。

どうせ死ぬなら。

だったらせめて二人には逃げてほしい。


少なくともカレンは、必要だ。

この先の作戦に必要な人間だ。


立たなければ。

立って戦わなくてはならない。

2人が逃げ切る時間を稼がないと。

せっかく、死ぬなら、

この命を有意義につかわねぇと…。


…あれ?


倒れた。

倒れてしまった。

足に力が入らなかった。

ちゃぷちゃぷと身体が血に浸る。

池のように溜まったこれが全部自分の血だと気がつく。


「ッ…――――!!!!…――――!!!!」


カレンがなにかを言っている。

でも聞き取れない。


うるさいなぁ。

死ぬ時くらい、静かでいたいのに。


やがて何も聞こえなくなる。


僕は一人になった。

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