客が神なら御利益をよこせ
「出てけ」
店長の冷徹な声が店を打つ。
瞬間、回りの者達が安心していく。
言われた者を除いて。
「なんだと!」
「おい、警察呼べ」
激昂する者を無視して、店長は指示を出す。
それに従い、店員は電話をとって110番通報をした。
「あ、警察ですか。
今、店で暴れてる人がいて。
すぐに来てください」
必要な事を伝えていく。
その間にも叫んでいた者は更に大声を出していく。
事の起こりは、叫んでる者が店で暴れた事による。
理由にもならない理由で店員にくってかかっていた客がいた。
土台無理な事を並べ立てていた。
どう考えてもできない事ばかりだった。
店員も、「それは無理です」「当店ではできません」と繰り返すしかない。
そんな店員に客は、「何いってんだ」「ふざけんな」と怒声を叩きつけていく。
そこにあらわれたのが店長である。
「出てけ」
事情を聞いて店長が客に言った言葉だ。
最初、客は何を言われたのか分からないようだった。
しかし、言ってる事を理解すると更なる怒声を発していく。
そこで店長は警察に通報。
今に至る。
「あ、店の戸を閉めて。
逃げられないようにして」
対策も忘れない。
「弁護士の先生も呼んで。
あとは手順通りに。
マニュアルを思い出して」
店員はその声に従って動いていく。
そうしてるうちに警察と弁護士が到着。
騒いでいた客を訴えていく。
「もちろん被害届を出しますよ。
出てけと言って出ていかなかったんだ。
不退去罪ですよね」
店長は至って冷静に処理を進めていく。
「あと、営業妨害もできますか?
できるならそれも」
該当するあらゆる罪を突きつけていく。
そこに容赦は無い。
「ふざけんな!」
文句をいってるのは客だけだ。
いや、もう客ですらない。
その後、叫んでいた客だった問題行動を起こしていた者は警察につれていかれる。
店長は弁護士を通してしっかりと訴えていく。
少なくとも刑事事件としての訴えを取り下げるつもりはない。
「最後までやります」
はっきりとそう宣言した。
「なんでだよ!」
つれていかれる問題行動を起こしていた者は愚痴る。
大声なのが、らしいと言えばらしい。
「俺は客だぞ」
「客だからなんだ?」
近くにいた店長は首をかしげる。
「問題を起こせば犯罪者だ。
少なくとも警察に対処してもらう。
当たり前だろ」
何もおかしくはない。
店長は当然の事をしてるだけだ。
問題があったから警察に通報した。
それだけである。
だが、問題を起こした者は不満があるようだ。
「客は神様だろ」
それが言い分けらしい。
だが、店長には全く理解できない屁理屈だった。
「そうか、神様か」
ならばと店長は求める、神様に。
「神様だったら、御利益を出せ」
御利益。
ゴリヤクと読む。
神様がもたらす利益だ。
健康や幸運、繁盛に成績上昇など。
金銭もそうだが、まずもって生きていく上で必要な様々な事をもたらす。
その御利益をよこせと店長は求めた。
「それにだ」
御利益だけに止まらない。
神というならば絶対にやってもらわねばならない事がある。
「神様なら、悪さをするな。
損害をもたらすな」
御利益がどれほど大きくてもだ。
それを打ち消す損失があっては意味がない。
儲け以上の出費があっては意味がない。
健康になってもすぐに怪我や病気になっては意味がない。
御利益と引き換えに損失を出すなら、神様として崇める必要がない。
むしろ、そんな神様なぞいない方がよっぽど良い。
「お前なんざ、神として扱うかよ」
祈り、祝われないなら神とは言わない。
信仰の対象にならなければ神とはならない。
感謝をしたくなるような存在だから神として奉り祭るのだ。
それができない者など神ではない。
客としてやってきた輩は、神ではなかった。
無駄な騒ぎを起こして損失をもたらす。
そんな人間なぞ相手にしてられない。
だいたい。人間が神を名乗るのがおこがましい
神ならばこそ、謙虚さも持ち合わせてるべきだろう。
自ら神を名乗る傲慢な存在など、既に神を名乗る資格がない。
「ふざけんなよ、このままで済むと思うな!」
「あ、脅迫罪も追加で」
罪を増加させながら警察につれていかれる問題を起こした者。
それを冷めた目で店長は見送った。
それから。
居合わせた回りの客に、
「騒ぎを起こした者は取り除きました」
と告げる。
「ああいった人間は断固とした対処をします。
今後もご安心して当店をご利用ください」
そう言って頭を下げる店長。
回りからは称賛の拍手が上がった。
とはいえ、店員達の何人かは不安があった。
一応は客であった。
そんな輩にああした対応をして大丈夫なのかと。
日本人らしい発想である。
だが店長は即座に答える。
「いいんだよ」
そこに迷いはない。
「俺達が相手にするのは客だ。
それこそ神様のようなな」
それ以外の客は客ではない。
御利益をもたらさないものは客でも神でもない。
「悪魔なんざお断りだ」
客は神様である。
ならば、神として御利益をもたらさねばならない。
損失や損害をもたらすなどもってのほか。
客が神というなら、神らしい事をしなければならない。
神としての役目を果たさないなら、それは神ではない。
それが貧乏神や疫病神、祟り神なら出ていってもらうまで。
神と名が付けば何でも良いわけではない。
欲しいのは福の神。
御利益をもたらす神だけだ。
「俺達が相手をするのは神様だけだ。
神でない奴は客じゃない。
さっさと追い出せ」
店員に向かって店の方針を伝えていく。
客を選べと。
「これで店が潰れるならそれでいい。
嫌な奴を相手にし続けなくいいからな」
接していて嫌な気になる者などいらない。
付き合う相手は良い者だけにしたい。
その方が楽しく仕事ができる。
そんな店長の方針に従って店の経営はなされた。
問題のある人間がいないおかげで、客が途切れる事がなかった。
いずれも金払いが良い人間だけというわけではない。
ただ、問題を起こさない者ばかりである。
そんな者が客として訪れた。
余計な手間が発生しない。
面倒に対処する必要がない。
その分だけ商売に専念ができる。
店はその後も長く続いた。
特に大きな儲けは出ない。
だが、着実な利益を積み重ねていく。
継続した利益。
それは発展と繁栄をもたらす。
低成長といえばそうだろう。
だが、低くても続いていく。
長年にわたれば大きな利益になる。
一度限りの高利益では得られない程の。
その利益をもとに、店は拡大発展をしていった。
10年、20年という時間はかかったが。
全ては神様だけを招いたからである。
神でない者を排除したからである。
神様になれるお客様。
それは確かにいる。
そうなれる人間だけと付き合ってきた。
「御利益をもたらさない客は神じゃない」
店長は常にそう言い続けてきた。
そういって行動してきた。
「これからも、御利益をもたらす神様だけを相手にしろ」
経営会議で常にそう言い続けた。
客を選ぶ店。
祭る神様を選ぶ店。
そこはその後の順調に発展をしていった。
店長が社長になり、死去して代替わりをしても。
店長が残した言葉を守る事で。
「神様なら御利益をもたらせ」
店のかわらない標語は、その後も消える事無く伝わり続けていった。
そんなお店は、お客様に恵まれる。
まともな客は悪い客のいない店を好む。
一人の悪い客は、数え切れない良い客を消滅させる。
それを知っていたからこそ、店長は悪い客を処分していった。
神は清潔な場所を好む。
ならばこそ、店長は清潔な場所を保つ事を心がけた。
ただそれだけの事である。
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