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グレイル・フォース・アイズ  作者: 九六式
月夜の晩餐
97/108

夕焼け



 



「疫病神め……」

「?」


 サイボーグの生首がメイドさんに足蹴にされたまま憎悪を込めた眼差しを向ける。


「何が御子だ、何が聖杯だ……一体何人の者たちが犠牲になったと思っている」

「何を言って……」

「お前なんかただの疫病神だ。どうせ同じことを繰り返す。少しでも世界のためを思うのなら、今すぐ死ね。この場で死ねよ!!!」


 ズブリ


 気づけばメイドさんから生首を奪い、深海がこめかみに指を突っ込んでいた。


「お前が言えたことか」


 呆気なく物言わぬ肉塊に成り果てたそいつを見て、背筋がゾクリとする。そうだ、何故こうも僕は色んな人間から敵意を向けられるのだろうか。


 元々人類の敵であるテレサはともかく、大江山も今回の襲撃者も、本来手を取り合うべき相手からも命を狙われている。


『同じことを繰り返す』


「な、なぁ……深海」

「………」

「御子って、一体なんなんだ……?僕は、一体……」


 深海はただ僕の震える手を握る。


「……ちょっと出掛けましょうか」


 




________________________________________________








 深海は僕を側車に乗せて【ケートス】と名付けたサイドカーを走らせる。以前からたまに乗せてもらうことがあったが黒い車体にところどころ青白いラインが引かれていて、深海と同じくクールな印象を受ける。


 もうだいぶ気温は暑くなってきたが、こうして感じる風はとても気持ちが良かった。


「先代は、兄の親友だった」

「深海の……?」

「ええ」


 そういえば昔、深海には兄代わりの人がいたらしい。戸籍上は従兄だったらしいが、よく面倒を見てくれたのだとか。そしてその親友。


「彼も……まあ、お人好しだったわ」

「………そうか」


 けど、そんな人物が何故。


「あなたも経験したでしょう?フォリンクリの中でも奴は別格なのよ。正面からじゃまず勝てない」


 何もかもが規格外だった。僕が未熟で舐められていた事や、奴に娘への、オルキヌスへの愛着が残っていた事、様々な要因が重なって漸く一撃を与えることができたに過ぎない。


「(そうか、成熟した御子が僕の様にマインドコントロールを受けてしまったとなると)」


 その後のことを想像する事は難しく無い。信号が赤になり、停止する。


 最初から奴が本気だったなら。


「正気に戻ったのはそれこそ心臓を抉り出された後だった」


 事情を把握していた深海や深海のお兄さんはともかく、巻き込まれた人達はたまった物じゃ無いだろう。だから大江山は。


 アイツだけじゃ無い。みんなが2度と同じ様なことが起こらない様、戦っていたんだ。それなのに僕は


「大丈夫よ、貴方なら」

「それはどういう……」


 信号が青になり、深海は再びケートスを走らせる。その横顔はとても爽やかで


「彼は屈した。けど貴方は乗り越えることができた。少なくとも貴方は彼の繰り返しではない」

「それは深海が居たから」

「なら私が隣に居続ける」


 深海の顔を見上げると深海もまた横目で僕を見下ろしている。


「らしくないじゃない。私じゃ無いと嫌だとか必死に口説いてきたのは何処の誰だったかしら」

「それはそんなつまりで言ったわけじゃ……」

「貴方が私を信じる限り、私は貴方を守り続けるわ」

「うっ……」


 深海の固い意志に思わずたじろぐ。


「それは……仕事だからか?」

「それもある。けど」


 目的地に着いた様で、停車するとエンジンを切る。すっかりもう夕方になっており、綺麗な夕焼けが青い海を紅に染めていた。


「他人に甘ければ詰めも甘い。けど、世界を救うのはきっと、そんなお人好し」


 振り返ると深海は今まで見せたこともない様な笑顔で


「私は、そんな貴方が好きなのよ」


 顔が熱くなる。夏だからだろうか。きっとそうに違いない。




 


  








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