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グレイル・フォース・アイズ  作者: 九六式
月夜の晩餐
93/108

金魚掬い




 


 深海の右手が男の腹部を貫き


「ふんっ!」


 文字通り抉り出す。引き摺り出された内臓がぶち撒けられ、辺りは血の海となる。


 致命の一撃。しかし男は何もなかったかのように立ち上がると、瞬く間に傷が塞がる。


 亜人の中でも吸血鬼はその強靭な肉体と圧倒的な回復力による不死性が特徴だ。そして何より


「ぬうっ!」


 恐るべきパワー。ガードの上から深海を吹き飛ばし、壁に叩きつける。


「本当にタフね。カトンボ共とは一味違うってことかしら」

「そういう君こそ、まるでこちらの技が効いてない。気配こそフォリンクリのソレだが、その外殻……君は何者だ?」

「今から死ぬ奴に答えてやる義理は無いわ」


 小夜時雨を握り直すと、今度は正面から振り下ろし、男も血の剣で迎え撃つ。


 単純な強さなら深海に軍配が上がる。現に何度も致命傷を与えている。


「(しかし奴は不死)」


 弱点こそ多いがその弱点をつかなければ決定打を与えられない。深海の攻撃ではダメージを与えられない。


「深海!槍を十字に!」

「わかった」


 男を蹴り飛ばすと小夜時雨を左手に持ち直し、右手に槍を生み出すと穂先を十字に変形させ、叩きつける。


 命中こそしなかったが掠った右腕をドロドロに溶かしてしまう。しかし、これは元々の死水の能力。


 十字架は関係なかったか。


「生憎と私はキリスト教徒では無いのでね」


 その死水も大したダメージになっていないのか、侵食した部位を切り落とし、再生する。


「ジリ貧ね。キリがない」


 一度後退し、深海が毒づく。かと言って僕には奴にダメージを与えられるような攻撃力は無い。せめて奴の不死さえどうにかなれば。


 いや、待て。


「深海、僕より前に聖杯の御子になった奴はいたんだろ?」

「……ええ、そうね。けど、それがどうかした?」

「以前、聖杯には与えたり、奪ったりする能力があるって言ったよな。先代はどう使ったんだ?」

「…………」


 深海は暫く考え込む。


「いや、彼ならきっと大丈夫」

「深海?」

「先代がどう使ったか、だったわね。あなたが大江山の肉体を潰したように、物理的に肉を抉ることもできるし、それこそ"能力を剥奪"することもできたわ」


 それだ。問題は奴の動きに僕の目がついていけるかどうか。あの時の状況を再現するには奴を視界に捉え続ける必要がある。


 ダメージがないからと言って奴は深海の攻撃に油断してるわけではない。死水の毒は侵された瞬間その部位を切除し、小夜時雨の斬撃は直接手で触れないように防いでいる。


「深海、僕に時間をくれ。奴から自己再生を奪う」

「了解したわ」

 

 他に考えられる発動条件。強い敵意では無い。もっと他の


「っ、深海!」

「何?」

「僕を撃ってくれ」

「は?」


 何言ってんだと言わんばかりにこちらを睨む。が、これは僕の考えあってのことだ。それに、この仮説はおそらく正しい。


「大丈夫だ。信じてくれ」

「っ……後で文句言わないでよ」


 深海は拳銃を抜くと瞬時に僕の左腕を撃ち抜く。装填されていたのが貫通力の高いものだったおかげか、僕の腕を撃ち抜いた弾丸は肉に止まることなく通り抜けていた。


「っ、くっ……!」

「こういうのは今回だけにして頂戴」

「すまん……手間を、かけさせた」

「ふんっ」


 鼻を鳴らすと深海は男に向かって駆け出す。


「ふぅ……よし、こちらからも仕掛けさせてもらう!」


 



 


________________________________________________







「はぁっ!」

「ぬぅぅんっ!」


 吸血鬼は歴史の長い種族で、鬼や妖精(エルフ)、獣人と並んで最古の亜人と称されており、大昔からその姿を変えていない。それは何を意味するか。


 進化できなかったのではない。進化する必要がなかったのだ。


 斬撃を空振らせ、懐に飛びこみ、顎を殴り飛ばす。


 そうしてできた隙に左手に死水で形成した剣を握り、二刀で両手足を切り落とす。


 小夜時雨で切られた部位は再生が遅れている。死水で切られた部位は腐り始め、異臭を放つ。


「やはりその刀、厄介だな。折らせてもらう」

「上等……!」


 








 

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