冥海の遣い
「なら、貴方はどんなハウンドを使うの?」
「僕か?僕は……」
深海からの問いに応えるべく鞄を漁り、申請書を探す。図面も載っているためそれを見せた方が早い。が……
「…………無い」
「は?」
期待の眼差しが軽蔑の視線に変わる。
「どうされたのですか?」
「いや、その……」
「………?」
「申請書を忘れた……」
どう探しても見つからない。
「(可笑しいな、確かに入れておいた筈なんだが……)」
「それは大変でございます………ど、どうしましょう……?」
「アッハハ!やっちゃったねー廻影くん!アッハハハ!」
燕翔寺からは心配され道尾からは笑われる。そして、甲本からは心底哀れた顔をされた。
深海はと言うと、元から興味がなかったのだろう。然程気にした様子もなく読書を再開していた。
「桐堂は自習。それ以外は全員ついて来い」
昼休みが終わり、担任の【傘草 勿雲】先生の案内の元、午後の実技の時間が始まるが申請書を忘れた僕だけ教室で自習することに。
「またね、廻影君!」
「なるべく直ぐ戻りますから……!」
「あ、ああ……」
相変わらずケタケタ笑う道尾と申し訳なさそうな燕翔寺に手を振り大人しく席に座る。
申請書を持って来た生徒達は今日それを提出して早速ハウンドを受け取るわけだが、まさか初日からやらかすとは。
「(アレは完全に目立ったな………)」
クラス中の視線が集まってしまった。
まあ、過ぎた事は仕方がない。自習しろと言われたし適当に教科書でも読んでいよう。
「(それにしても………)」
教室を見渡す。ほかに生徒はいない。
「(一応普通科も、見にいくんだな)」
普通科の深海も居なかった。
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気配を殺し、周囲に溶け込み、列を離れる。そのまま学園の屋上へと向かう。
電子ロックを狂わせ、扉を開く。
「(敵は1人とは限らないけど……)」
『オルカさん、準備はよろしいか?』
「ええ。ちょうど今ポイントに到着したわ」
通信機ごしに聞こえる若い教諭の声に着替えながら返事をする。
「さて、と……」
愛用の黒いジャケットに腕を通し、一振りの刀【小夜時雨】を背負う。
『了解です。ですが、本当に今日、ですか?』
「ええ。間違いなくね」
伊達眼鏡を外してケースにしまい、代わりに黒い帽子を被る。おそらく彼は申請書をなくしたわけでは無い。何者かが隠したのだ。彼を無防備な状態にし、そして確実に始末するために。
既存の兵器より"生身の人間への殺傷力が低い"とはいえ、武器の有無は勝敗を大きく左右する。刺客が打って出てきた以上、まだ確証は得てないが彼は例のブツをその身に宿していると考えて良い。
『わかりました。後はオルカさんの判断で行動していただいて構いません。サポートはおまかせを』
「了解」
「偽装名・冥海獣。行動開始」