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「それじゃあ改めて、お疲れ様」

「あ、ああ。ありがとう」


 ウェイトレス姿の深海からパンケーキとコーヒーを差し出される。受け取ると深海はエプロンを外して向かいの席に座る。


「それにしても、よく1位になれたな……」

「別に、そんな大した事はしてないわ」


 僕達からしてみれば大した事なのだが、深海からしてみれば本当に大した事ではないのだろう。それほどの強さ。


「時花、か……」

「…………」


 声が漏れていた様で、深海の顔が僅かに強張る。


「あっ、すま……」

「気にしなくて良い。私の出自については、いずれ知ることになっていただろうし」


 オルキヌスのコアが体内に埋め込まれているのは知っていたが、深海の出生はそんな簡単な物ではなかった。


「幼少期、私がまだ時花の子だった頃、ある集団に誘拐された。カルト教団の様な物よ、テレサの様な人型のフォリンクリを新人類とする頭のおかしい連中。攫われた先で何をされたか、は説明しなくても分かるかしらね」


 人間を素体に人工的に人型のフォリンクリを生み出そうとした。その為にエレミュートに対して耐性を持つ退魔の一族である時花を狙ったのだと。


「今私がこっち側にいる以上想像はつくだろうけど、まあ救出はされたわ。ただその後、私の中にオルキヌスのコアがある事が判明した」


 そこから先はトントン拍子、代々続いてきた退魔の一族に魔との混ざり物が出た。そんな事実受け入れられるわけがない。無価値どころの話ではない、何がなんでもその事実を消したかった。


 だがオルキヌスを宿している以上下手な手出しはできない。


「時花の末娘はそうしてこの世から消えた」


 そうか、そうだったのか。これで全てに合点がいった。フォリンクリに対する異常なまでの殺意や軽蔑、俺に対する大きな期待、自分の能力に対する嫌悪。


 そして何より"相手が格上だろうが死んでも殺す"、"自分の身が動かなくなるその時まで殺し続ける"という一種の殺戮人形じみた行動。


「一つ言える事があるとすれば、今の私は深海瑠花。それだけよ」


 深海は静かにそう告げた。

 

「………」


 目の前のパンケーキにがっつく。突然の行動に深海は理解ができなかった様で戸惑う。


「美味しいよ、深海」

「そ、そう……?それは、良かった」


 時花の人間がどう思っていようと僕にとって深海は無価値ではない。あの日深海は僕とは目的が違う、と言っていたがそんな事はない。


「変なこと言って悪かった」

「それは今言ったこと?それとも時花のこと?」

「………」

「気にしなくて良いって言った。なんなら溜め込んだものを吐き出せたみたいに少しスッキリしたくらいよ」

「そうか」


 ふふっ、と笑うとパンケーキをがっつく僕を興味深そうに眺める。


「前から気になっていたの。私が作ったソレ、どんな味なのかしら」

「………少し食べるか?」

「ええ」


 新しいフォークを出そうとするが、トレーには最初から一本しか入っていなかった様で見当たらない。仕方なく皿ごと渡そうとすると手でおさえられる。


「食べないのか……?」

「いいえ。だから食べさせて」

「…………」


 そう言って自分の口を指さす。仕方なく一切れフォークに刺して差し出すとパクりと一口で食べてしまう。


「ご馳走様」

「お前が作ったパンケーキなんだけどな……」


 しかし、どこか楽しそうにしているのを見て安心する。


「それで、次の目標は?」


 それを聞いてある先輩の顔が浮かぶ。深海の正体を知っていたであろう人物、そして学園祭前年度王者。矢那瀬先輩。


「学園祭優勝、だな」

「個人戦?団体戦?」

「両方で」

「欲張りね」


 ニヤリと笑う深海。個人戦となると深海ともいずれ当たることになるだろうが、それでもやるからには全力を尽くしたい。


「本番、楽しみにしてるわ」


 あぁこの人、僕に勝たせる気無いわ。それでもやる事は変わらない。


「今後ともよろしく」

「こちらこそ」










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