烈扇
入学して1週間が経とうとしたその日。
「………?」
何やら後ろから視線を感じる。振り返るが、僕に視線を向ける人は誰一人居ない。
「どしたの、廻影くん」
「ああ、いや。何でもない」
「…………」
もう一度後ろを見るが特に変わった様子は無い。気のせいだろうか。
「そういえば今日だったわよね?」
「ん?何がだ?」
道尾が落ち着き、やっと昼食を取っていると甲本がそういえばと野菜ジュースを飲むのを中断して話を切り出す。
「ハウンドでございます、桐堂様」
「ああ、そういえば」
確か昨日配られた申請書にサインして持って行くんだった。
ハウンドはフォリンクリを倒すために作られた武器の総称で、さまざまなタイプがある。
大きく分けるとエレミュートで形成された刃で敵を斬る近接戦闘用のソードデバイス、圧縮したエレミュートのビームで敵を撃つガナーデバイスの2つに分けられる。
「ちなみにわたくしは、コレでございます」
「えっ!?何それ!?」
燕翔寺が懐から取り出したのは扇子だった。だが、どこかおかしい。
「烈扇か?」
「はいっ!その通りでございます、桐堂様」
昨日出たカタログで紹介されていたからすぐにわかった。
燕翔寺の実家、飛燕グループの新ハウンド。分類はソードデバイスだが、使用者によってはガナーデバイスとしても機能するらしい。まだ試作段階だと聞いていたが……
「(いや、そうだったな)」
燕翔寺家の令嬢なら、その試作品を持っていて不思議では無い。むしろこの学園はデータを取るのに持ってこいだ。
「いいなぁー、個人所有のハウンドなんて〜」
道尾の言う通り、ハウンドは基本的にどのメーカーも高価な物だ。学生のほとんどはここで貸し出されたリミッター付きのハウンドをプロになるまでの間、使い続ける。
丁寧に扱えば卒業後はそのままリミッターを外して実戦用に使うこともできるから現役のハンター達は大体この学園で手にして、馴染んだハウンドを持っている。
一部素晴らしい功績を残す様なハンターは自分用のハウンドを持っていることもあるが。
「良いな良いなー!」
「静かにしてよミチオ」
「ミチオ言うなー!」
道尾と甲本がいがみ合っているのをよそに、また僕の視線は例の少女に行っていた。
「何かしら」
「いや、深海さんもハウンドとか興味無いのかなって……」
1人だけだ、燕翔寺のレッセンを見ても落ち着いている生徒は。他の生徒達は燕翔寺や僕達を囲む様にレッセンに注目している。
「無いわ。私、普通科だもの」
そう、この学園に通うのは何もハンター志望の学生だけでは無い。彼女の様に勉学に努め、上の学校を目指す学生もいる。
進学の為にわざわざこの学園を選ぶメリットは無いが、他の学校より勉学面で劣っているわけでは無い。実家が近いなら普通に選択肢に入る。
「(けど……)」
この謎のプレッシャー、本当にただの普通科生徒名のだろうか。