水鏡
蛇に睨まれたカエルの様に、僕は矢那瀬先輩の目を見てから身動きが取れずにいた。
「何してるの、桐堂」
「っ!?」
不意に背後から声をかけられ飛び上がる。振り返るとそこには深海とクタクタにくたびれた燕翔寺の姿が。
「………ああ、鷹の目。前年度王者様ね」
「そう言う君は?」
「狩猟科一年、深海瑠花。そこのボケナスのクラスメイトよ」
「ボケナスって……」
「………」
だが深海のお陰で眼力から逃れることができた。深海と矢那瀬先輩が対峙する。
「君、強いね」
「いいえ全然」
やれレベルは未だに1しかないだの、元は普通科で転科しただの、正面戦闘は苦手だの
記録上はその通りなのだが僕や今さっきその被害にあった燕翔寺は苦笑いをしてしまう。
「(よくもまあ、ペラペラと……)」
だが矢那瀬先輩は予想外の名を口にする。
「時花でしょ、君」
「………」
不快そうに深海は眉を顰め、髪に手を添える。いや、それよりも
「(時花だと、先輩はそう言ったのか!?)」
僕でもその名は聞いたことがある。時花、フォリンクリ殺しの名家、魔殺しの時花。ハンターという職業が生まれる以前から現在フォリンクリと呼ばれる化け物共を退治してきたという、エリート一族。
「(深海が、時花一族なのか……?)」
しかし、そう考えると合点がいく場面がチラホラ。
特にその類稀な戦闘技能。オルキヌスのコアをその身に宿しているとは言え、素の戦闘技能は深海の物だ。
咄嗟の判断力、華麗な足技や強烈な打撃、そして卓越した剣技。それが深海の努力によるものであるのは間違いないが、エリートの家系出身となれば尚頷ける。
「(だが)」
「人違いじゃないですか?」
深海が不快さを露わに、感情が表に飛び出しているのを見るに何らかの事情がある様だ。
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「人違いじゃないですか?」
「そうかなぁ〜?」
「(チッ)」
心の中で舌打ちする。時花、まさか忌々しいその名をここで耳にするとは思わなかった。
再び見開かれる彼女の瞳。桐堂と似た金色の瞳。
そうか、この女……
「聖杯。いや、スキルロストか」
「正解」
先代御子が起こした事件の一つ。能力者達が次々に死亡するという怪事件があった。
後に判明したことだが、能力者達は御子に能力を奪われた上で殺害されていた。奪われた能力は御子の権能の一部として行使されてほか、配下達にも与えられたと言う。
だが、能力を奪われてたものの命からがら逃げ延びた人間もいた。
その者達をスキルロスト、と呼ぶ。
彼等を当時の対策部が保護し、今では社会復帰も果たしているが、御子が死亡し、この世から聖杯は一度は消失しても、奪われた能力は帰ってこなかった。
だが、そんなスキルロストの中で妙な力に目覚めた者がいた。それがおそらく彼女。"真実を見通す水鏡"が今の御子である桐堂にも扱えていることから考えられるのは
「権能の一部、その残滓が移ったのね」




