器として
「はぁっ!」
気合と共に剣を振り下ろす。対する相手はそれを受け流し、地面に激突させると足蹴にする。
「っ!」
地面にめり込み、固定されてしまった。咄嗟に手を離し、後ろへ倒れる様に身を逸らすと、顔の目の前で蹴り足が通過する。
「くっ……!」
すぐに体勢を立て直し、武器を拾おうと駆け回る。
「間に合え……!」
滑り込む様に武器を掴み、引っこ抜く。なんとか取り返せた。これで仕切り直し、そう意気込んだ時だ。
細い腕が僕の胴体に、蛇の様に巻き付く。
「しまっ」
「はい、おしまい」
フワッとした浮遊感を味わったかと思いきや、次の瞬間地面に激突していた。僕の、負けだ。
「武器に拘らず、即座に捨てて回避してのは良かったわ。けど、余程のことがない限り一度手放した武器は2度と戻ってこないと思いなさい」
「りょ、了解……」
差し出された手を取り、起き上がると、あちこちについた砂埃をはたいてもらう。
「………聖杯の権能は上手く使ってる?」
「あ、ああ。弾道や斬撃の軌跡を予測したり、その場での駆け引きで、特に」
「貴女の持つソレはただの占い道具なんかじゃない。今ならもっと他の能力も使えるはずよ」
そう言われ思い出す。大江山の仮想体を肉塊にしてしまった力と、テレサとの戦闘中に咄嗟に起きた現象。
この2つも関係しているのだろうか。
「恐らく確実に使えるのは与奪でしょうね。注ぐ器。智恵と良くペアを組んでるようだけど、気づいてる?貴方と一緒にいる時の彼女、普段と能力値が違うのよ」
言われてみれば確かに、燕翔寺は強力な能力を持つとは言え、戦闘に関しては僕と大差ないはず。なのに
「確かに動きが速すぎる」
「他にも、器というものは与えるばかりじゃないわ。コップで水を掬うように、奪うこともできる。例えば」
そう言って深海は死水で剣を形作ると、僕に振り下ろす。突然の出来事に咄嗟に右手を突き出すと触れる直前で
メシャッ
丸められた新聞紙のようにグシャグシャに。
「見て」
「え?」
そう言われて深海が握る剣を覗くと、彼女はその剣を元の形に戻そうと広げる。そこにはまるで空気を抜かれた風船のおもちゃのようにくたびれた剣があった。
「これはとても大きな武器になるでしょうね。ま、人様に使っちゃダメよ」
「すまん……大江山に一度……」
事情を話すとオルキヌスにゲラゲラ笑われた。途中で深海が黙らせてくれたが。
「ああ……まあ、アイツなら良いでしょう。リアルでやったわけでもないし。今後使用は私の前だけにしてちょうだい」
「了解だ。あ、あとアレはどうなんだ……?」
「アレ……?」
テレサと自分の位置を入れ替えた出来事を説明すると深海は少し考え込む。
「水面を覗いて未来を占う。器として与え、奪う。まではわかるのだけど、まさかコップマジックとか言い出さないでしょうね……?」
「…………」
「…………まあいいわ、時間があったら調べておく。とりあえず朝の支度をしなさい」
「ああ」




