地獄槍
「オルキヌス、我が愛娘。最後のチャンスを与えます」
「へぇ、そりゃどんな?」
「その手で聖杯を破壊しなさい」
「………」
両足に穴を開けられ、深海は膝をついている。もう奴の攻撃を躱せない。
それに、だ。僕は彼女に助けられこそしたが逆に何かしてあげた記憶はない。見捨てられても無理はない。
「(どうする、廻影……)」
僕が命を差し出せば深海だけは見逃してもらえるかもしれない。
「バカな事考えるんじゃないわよ、桐堂」
「っ」
見透かされていた。不機嫌そうに深海は鼻を鳴らすと、シスターに向き直る。
「そういえば名前、聞いてなかったわね。私の名は深海瑠花。言っておくけどあなたの娘でもなんでもないわ」
「人としての名なら、そうですね。刻城テレサとでも名乗らせていただきましょうか」
緊迫した空気が漂い、同時に2人は引き金を引く。
深海は拳銃を投げ捨てると空いた右手で黒く、より一層大きなシャボン玉を撃ち出す。
「馬鹿の一つ覚えのように……」
テレサはため息をつきながら両断するが、霧散した死水は次々と形を変える。
「(あれは、手裏剣!?)」
「漆薄刃」
テレサを取り囲むように無数の手裏剣が襲いかかる。が、直後に出現した青白い障壁に阻まれ、窓にかかった水のように弾かれてしまう。
「まだまだ」
こぼれ落ちた死水は針山のように鋭く、下からテレサを串刺しにせんと伸びる。
しかし、届かない。負傷した深海とテレサでは圧倒的に出力が違う。
「娘と言えど、これ以上は許しませんよ。考え直すなら今ですが」
「寝言は寝ていってくれるかしら。交渉するならそれ相応のメリットを示しなさいよ、間抜け」
「………どうしても聞けないのですね」
「そりゃあ、ねぇ?貴方、自分より弱い奴に従う?私は従えないわね」
深海の減らず口にいよいよテレサは怒りをあらわにする。
「もう良い、悔いて恥じろ。お前は必要ない」
その一声を聞くと深海はニヤリと口角を上げ、筒のようなものを投げ放つ。
直後煙を吐き出しながら転がり、あたり一面真っ白に染まる。
「猪口才な、何をしても無駄です」
大体の位置に見当をつけ、鎌を振り上がる。しかし、何かがおかしい。
ズルッ
「?」
先ほどのような不意打ちは二度と受けない。全方位を最大出力で護る。しかし、なんだこの違和感は。
その答えはすぐに返ってきた。
ズブブブッ
気づけばそこに黒い棘があって
「しまっ」
「もう遅い」
煙が晴れる。そこには鎌を振り上げたまま動かなくなったテレサと、その胴体を貫く、禍々しい黒い槍と、それを右手に持つ深海がいた。




