死線
思い返せば確かに彼ならば納得のいく動きばかりだった。
私が教え、私が鍛えた剣技。その剣技を囮にした暗殺拳。身につけたばかりでまだモノに出来ていない予知の擬似オートガード。
そして何より、あの甘さ。狩人に似つかわしく無い、守る者の剣。どうしても人型相手にトドメを刺さない、刺せない。しかし、いざ守る相手が出来た途端やたらしぶとくなる。
一瞬、脳がフリーズする。その間、2秒。されど2秒。彼と違い、その隙を逃すほど奴は甘くは無かった。
振り下ろされる大鎌を咄嗟にガードする。
「くっ……」
飛び散る飛沫。黒く濁った汚れた血。本来痛みを感じない筈のこの体が悲鳴をあげている。思わず顔を顰める。
桐堂ごと輪切り真っ二つという最悪の事態は免れたが筋を斬られた様で左腕は死んだようにだらりと垂れ下がってしまっている。私の武器のひとつだったソレは最早ただついているだけの肉塊に成り下がった。
力が全く入らない。まさかただの斬撃が死水のバリアすら貫通してくるとは。
普通の刀剣なら難なく受け止めたうえで使い物にならないほどに腐らせるというのに。
「(やはり私1人では分が悪い)」
動かなくなった桐堂を肩に担ぎ、少しずつ後退る。
「逃すとお思いですか?」
「そりゃあ、ねぇ?」
床を踏み抜き、砕けた瓦礫を蹴り飛ばす。難なく右手の鎌で弾き返される。が、ほぼ同時に放った無数のシャボン玉が取り囲む。
死水で作ったその黒いシャボン玉は一斉に弾け、辺りを毒霧で埋め尽くす。
「腐って死ね」
とは言ったものの、あまりこの技に期待はしていない。ひとたび人間が浴びれば皮膚は爛れ、目は腐り落ち、数分もたたずに腐った肉塊に成り果てる様な劇物だがその程度で死んでくれるなら私や紅葉さん、そして本部のエリート部隊も苦労していない。
奴が優れているのはあの光線による火力だけでは無い。私の槍を防いで見せたあの絶対的な防御も決め手に欠ける要因となっている。
「ちょっと我慢しててよ、桐堂」
「………」
ステンドグラスを突き破りながら教会から飛び出す。とは言え本命である彼の救出には成功した。後は彼に仕掛けられた細工の解除と、奴の始末。
「まあ、そう簡単には行かないわよね……」
投擲された鎌を避け、その場を立ち去る。
今は桐堂を安全な場所へ送り届ける事が先決だ。例え私が死ぬことになっても、彼だけは必ず守り通さなければ。
まずはメラノと合流しなければ。




