聖杯の御子
のれんを潜り、ホールに入る。
ここは【蔵ノ月珈琲】。どこかのチェーン店みたいな名前の癖に全国でここの学園都市にある1店舗しかない以外はごく普通の喫茶店。
私は表向きそこのアルバイトとして生きている。
「お、瑠花ちゃんお疲れ様ー」
「そちらこそ、お疲れ様。紅葉さん」
今日のオススメや日替わりのメニューをメモに取りながら店長である紅葉さんに挨拶する。
「で、どうだったの」
「どうって?」
「噂のカレ♪」
「………」
噂のカレ、と言うのは桐堂廻影の事だ。
「どうやらホンモノの様ね。私の偽装が看破された」
「うっそぉ……?」
あの帽子とマスクはただ顔を隠すだけでは無い。ある"能力者の能力"によって"記憶に残らない"加工が施されている。誰もが次会った時は勿論初対面同様の反応をとる。そう易々と見破れるものではない。
「先代の【御子】は聖杯を体内に宿していたんだったわね」
「らしいね。けど、それがどうしたの?」
「右目が稀に金色に輝く時があった」
おそらくそれがあのタヌキジジイが守りたがっているモノ、聖杯だ。
「ビンゴだね」
「ええ」
彼が甲本に襲われた時、初め私は彼を観察していた。あの妙な挙動からして【未来視】も断片的とはいえ解放されていたようだった。そして私の変装を見破った事、彼は現在【目の権能】だけを扱える様だ。
「上には報告済みだよ。引き続き護衛に当たってほしいとのこと」
「了解」
御子である事は確定したが、まだ未成熟。たとえ依頼や上からの命令が無かったとしても彼はまだ護衛が必要だ。
「(フン、かつて人類を滅亡一歩手前まで追い込んだ化け物である私が人類救済の鍵を守るとはね)」
心臓で蠢くモノにそっと手を当てる。
「ああそれと」
「?」
鞘に納めた刀【小夜時雨】と拳銃【ツバキ】をカウンターに置く。
「壊れた。直しといてくれる?」
「またぁ!?」




