深淵を覗く時
「伏せなさい!」
彼女の指示に従って屈むと、とてつもない衝撃と共に爆音が鳴り響く。先程甲本に飲ませた爆弾だ。
「ハハッ、効くわけないでしょ!」
雑音と共に人の様な声が聞こえる。その直後、触手の一本がブレる。
それは僕を狙った一刺しだった。
「させない!」
間一髪それを彼女の刀が弾き返す。が
ギンッという音と共に美しい刀身が床に落ちる。ライローすら真っ二つにした彼女の刀が真ん中あたりで折れていた。
「チッ」
彼女は折れた刀を鞘に納めるとホルスターから銃を抜き取り、発砲する。発射されたのは案の定、実弾だ。
目の前の化け物はおそらくフォリンクリ。フォリンクリに既存の兵器は通用しない。
「ギャッ!?」
しかしその弾丸はどういうわけか化け物の触手の一本を吹き飛ばす。
「今のうちに逃げるわよ」
「えっ?うわっ!?」
再び手を引かれるがままに走り出す。
「貴方、自分が何故狙われているか分かる?」
「いや……」
「少しは考えなさいよ」
「そんなこと言われても……」
全くと言って思い当たることがない。何かすごい力を持った能力者でもなければ燕翔寺と違って裕福な家系だったり、親が凄い人というわけでもない。
なんなら僕には両親が居ない。
特技もこれといって無い。特徴と言えば妙に勘がよく当たるくらいだ。
それこそ先程"甲本の不意打ち"に反応できたり、いまの触手の攻撃を、目で追えなくても"何をしたかは理解する"ことができたり。
彼女は暫く僕の顔を眺めると何か納得した様に1人で頷く。
「なるほどね」
そう言ってまた走り出す。後ろにはもうすぐそこにあの化け物の姿が。
「追いつかれる!」
「うるさい。口閉じてなさい」
そのまま窓を飛び出すと窓枠に足を引っ掛け、あろうことかそのまま垂直に駆け上がる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「口を閉じろって言ったでしょ」
屋上にまで辿り着くと彼女は僕を放り出し、背を向ける。
「そんなに鬼ごっこが好きなんだ」
「別に」
登ってきた化け物に間髪入れず無数の弾丸を叩き込むが耐性を得たのか容易く弾き返し
「そらっ!」
「くっ……!」
拳銃を破壊してしまう。もう一丁の銃をすかざす抜き、撃ち続けるもやはり効果が無い。
カチッカチッカチッ
気づけば弾切れを起こしていた。
「(せめてあの刀が健在なら……)」
僕も彼女も完全に丸腰。このままなぶり殺しにされてしまう。
「(僕のせいだ……)」
あの時彼女が甲本にトドメをさせていれば、僕が邪魔をしなければ。
「すまない……」
「何が」
「僕のせいで君まで……」
「………」
彼女は拳銃を投げ捨てると丸腰のまま化け物に向かって歩み寄る。
「あまりコレは使いたくないのだけど……仕方ないか」
彼女がそう呟いた時だ。彼女の手のひらからドロリと泥の様な黒い物体が出現し、何かを形作る。
それは先程彼女が葬った男の1人に突き刺さっていた黒いナイフだった。
「何よ、それ……」
気づけば黒かった彼女の頭髪は雪の様に真っ白になっている。
「悪性エレミュート」
聞いたこともない単語。しかし化け物はソレを聞いて震え出す。
「バカな、善性ですら高濃度になれば高い毒性を持つというのに……それを……生物、ましてや人間が……」
「吸えば窒息、触れれば腐食、挙げ句の果てに電子機器にすら悪影響を及ぼす」
ゆっくりとその刃を奴に突きつけ
「貴女達にはどう作用するのかしら。ぜひ見せてほしいものね」
彼女はそう言って笑った。




