海獣と飛燕
「最初から、ねぇ」
右腕の修復を終えた深海は外に向かって左手を伸ばし、その手に収まる様に一振りの刀が飛来する。
深海の愛刀、小夜時雨だ。今回は何の偽装もされていないありのままの姿をしている。これはあまり余裕が無いということだろうか。
「ふぅーっ」
静かに、大きく息を吐くと鞘に納めたまま柄に手をかけ、姿勢を少し低く構える。どこかで見覚えのある構えだ。
「(【居合い】か……!?)」
実際に見るのは初めてだが、噂によると放たれた弾丸をも両断する神速の剣技だとか。深海は今の燕翔寺とスピード勝負をするつもりか。
「馬鹿なやつだ」
不知火さんは深海をみて鼻で笑うと、燕翔寺に合図を出す。しかし
「………どうした?」
「…………」
燕翔寺は不知火さんの声に応えず、その場で佇んだまま剣を構えている。
その様子はまるで深海から不知火さんを守るかの様。
「馬鹿はアンタだ、不知火さん。一歩でも動いてみろ。燕翔寺が深海の首を落とす前に、深海はアンタを殺す」
次に起きてしまうであろう惨状が僕には見えてしまっていた。抜刀されると同時に小夜時雨から青白い閃光が迸り、不知火さんが真っ二つに斬り捨てられている。
不知火さんも僕の「目」のことは知っているのだろう。忌々しそうに僕と深海を睨みつけると、目を閉じてため息をつく。
「チッ……もう良い。起きろ、"智恵"」
「………はっ!?」
まるで授業中の居眠りを先生に怒られて飛び起きた時のように、燕翔寺は目を見開く。
「ぇ、あれ……?わたくしは……」
「智恵、お客様を案内しろ」
「は、はいっ、お父様!ささ、お二人ともわたくしに着いてきてくださいませ」
すっかり元に戻った燕翔寺だが、ここも敵地だったことに驚きだ。つくづく僕と深海は嫌われ者なんだな、と実感する。
前任者には5、6回ほど殴らせてもらいたいものだ。




