よりどりみどり
「久しいですね、瑠璃」
瑠璃。深海が時花の姓だった頃の名だろうか。その名を聞いた瞬間目を細める。
「その名は捨てた」
「………そうでしたね」
深海に拒絶され香織さんは寂しげに笑う。
「あなたを守れなかった私に、姉を名乗る資格は無い」
「良いから、そういうの」
再び訪れる沈黙。重苦しい空気と先ほどの不快感で限界を迎えた僕は
「うおおえええええっ」
「ちょ、桐堂!?」
「っ!?」
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「た、助かった……ありがとう、深海」
「ごめんなさい、私としたことが……」
深海に体内の死水を抜かれ、香織さんに渡されたお茶を飲み、漸く落ち着いた僕は座って一息つく。
「えっと、時花香織さん、ですよね?」
「はい、時花香織です。御子様、お会いできて嬉しく思います」
顔を寄せられドギマギしてしまう。姉妹揃って顔が整っていて、直視できない。
「………言っておくけどその人、人妻だから」
「え?」
一瞬深海の言葉が理解できず、頭がフリーズする。
「(人妻?)」
深海の元姉。僕達と大して歳の離れていない彼女が、既婚者だと。
「ちょっと、何?ショック受けてるの?桐堂?ねぇ、桐堂?しっかりしなさい、大丈夫なの?」
「ハッ」
危なかった。何がとは言わないが、とにかく危なかった。
「助かった。ありがとう、深海」
「ああ、そこからリセットするのね……本当に大丈夫かしら?」
ともあれ、香織さんが来てくれなかったら今回ばかりは深海も危なかった。
「香織さんも、ありがとうございます」
「いいえこちらこそ、妹を助けていただきありがとうございます、御子様」
それにしてもまさか憧れの人物が目の前にいるなんて、なんだか現実味が無いな。
「それで、護衛もつけずに何してるわけ?」
「……えっと、紅葉と待ち合わせをしていたのですが、瑠璃……いえ、瑠花の姿が見えたもので、つい追いかけてしまって」
それを聞いて深海はまた目を細める。そして背後に向かって傘を振り下ろす。
「うおあっ!?」
そこには傘を白刃取りで受け止める紅葉さんの姿が。
「ったく、どいつもこいつも……」
ハァとため息をつく深海に「ごめんなさーい」と紅葉さんが縋り付く。
「場所を移しましょう。昼、食べ損ねたし」
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とりあえず4人で近くのカフェに来たわけだが
「(で、これはなんなんだ?)」
隣に深海、正面に香織さん、その隣に紅葉さん。控えめに言って全員素敵な女性達。
「目が、死ぬ……」
「しっかりしなさい。貴方は御子、この中で1番上の立場なのよ?」
「胃が死ぬ……」
「もう……」
「なんか夫婦みたいだねぇ〜?」
「はい、なんだか弟ができたみたいで嬉しいです」
誰か、誰か助けてくれ。燕翔寺、メラノさん……いや、あの人たちも結構なお嬢様だった。




