雷狼の唸り声
「そろそろか」
もうすぐチャイムがなる。誰もいないし帰宅の準備でもしていよう。そう思い教科書類を片付け始めた時だった。
バンッ
ドアが勢いよく開け放たれ、1人の女子生徒が入ってくる。
「お待たせ」
「…………甲本か」
右手には大型チェーンソーの様な形状のソードデバイス、【ライロー】が。まだチャイムは鳴っていないが、ハウンドを持っているという事はもう申請書を出したのだろう。
「授業は終わったのか?」
「そそ、早めにね。ハウンドもらえずに寂しそうなアンタの為に急いで戻ってきたわけ」
甲本の気遣いに感謝するも束の間、何か嫌な感覚が背筋を走る。
「悪いな。わざわざ」
「そうそう、学生のうちはリミッターつけられちゃうから初期設定する前に抜け出すの結構苦労したんだから」
ゆっくりと振り上げられるライロー。右目に痺れの様なものを感じ、視界に映るものとは別の光景が目に浮かび戦慄する。それは
「リミッター無しの実戦用のライロー。どんな威力か、知りたいでしょ?」
ぐちゃぐちゃに引きちぎられ、物言わぬ肉塊になった自分の姿だった。
「クソッ……!」
危なかった。あと少し、ほんの一瞬反応が遅れていたら僕自身もあの机と同じ様に真っ二つになっていた。
「待ちなさいよ」
「待つ訳ないだろう!?」
ライロー。現在甲本が片手でぶん回しているチェーンソーの様な大剣タイプのハウンド。
エレミュートで構成された刃が高速回転して敵を斬り裂く武器。その圧倒的な破壊力からパワーに優れた亜人や能力者に好まれることが多い。
「意外と逃げ足が早いのね。ターゲットはそっちに行ったわ。援護して」
「っ!」
側の部屋から黒いスーツで身を包んだ人物が現れる。右手には拳銃、僕を狙っている。
「死ね」
「くっ……!」
咄嗟に胸ポケットのボールペンを投げつける。男は予想外の行動に困惑したのか僅かに銃口がブレる。
「いっつ……」
放たれた弾丸は僕の頬を掠め、後方に飛んでいく。
「(実弾!?実体兵装……!?)」
実体兵器。鉛の弾丸を放つ拳銃など、いわゆる既存の兵器。フォリンクリに対して効果がなく、それに引き換え生身の人間への殺傷力が高いそれは現代では忌避されている。
事実今ではゴム弾や麻酔銃の代わりに低出力に設定されたガナーデバイスのハウンドが使われている。
交戦は避けるべきだ。
「余所見とは余裕じゃない」
「くっ……!」
エレミュートに適応した人類は稀に不思議な現象を引き起こす。人々はそれを一般的に【能力者】と呼ぶ。
恐らく甲本は身体強化系の能力者。じゃなければあの重量を持つライローを軽々と振り回せる訳がない。絶対に戦っちゃいけない。
窓から飛び降りようと窓枠に足を掛けたその時。
「バカが」
「がはっ!」
背中に蹴りをくらい、そのまま外に投げ出される。そして、体勢を崩し、不時着する。
「ぐっ、ごはっ……」
強い衝撃を受け、身体が動かない。息もうまく出来ない。
「やっと動かなくなった。アンタ達、罠の可能性もあるからしっかりと見張っておきなさいよ」
「OKシスター」
後から降りて来た甲本と数人の人物が動かないでいる僕を囲む。
「年貢の納め時って奴ね」
再び振り上げられるライロー。次は、避けられない。
「だれ、か……!」
「だれも来ないわよ」
「っ………!」
僕の助けを求める声も虚しく、ライローが振り下ろされる。もうダメだ。そう目を閉じ諦めそうになった時だった。
「それは、どうかしら」
凛とした声が、確かに僕の耳に聞こえた。




