秘密の会談
一組の男女がカウンター席に並んで座る。
片方はスーツを着た中年の男性。もう片方はフード付きの黒いジャケットを着た若い少女。
親子ほど歳が離れた2人だが、もちろん血縁者でも恋人同士でもなんでも無い。
「で、定休日の喫茶店に女子高生を連れ込んで何のつもり?」
カランとグラスに入った氷が鳴る。
「君に頼みたいことがあってね」
「何?パパ活?いやよ、そういうの。他を当たって頂戴」
そう言って少女は今すぐにでも帰りたいとばかりに気怠そうな目を向ける。しかし男はその視線を全く意にかえさず、ケラケラと笑う。
「いや、君の腕を見込んでお願いしたいんだ」
「腕……?」
「そうとも」
「【切裂者】。先鋭揃いの【特別危険現象対策部】の中でも特に戦闘に特化している君に頼みたい」
その単語を聞いた途端先ほどまで気怠そうだった少女の目つきは獲物を射殺すようなモノに変貌し、姿を消したかと思いきや一瞬で背後を取り、何処からともなく取り出した真っ黒なナイフを男の首筋に突き立てる。
「誰から聞いた」
「ひとまずソレを下ろしてくれないか?」
「答えろ。貴様、誰から聞いた」
「アタシだよ」
声が聞こえた方を見るとそこにはメイド服を着た女性がニコニコ笑っていた。はぁ、と少女はうんざりした様子で溜息をして剣を納める。
「先に言っておくけどリッパーって呼び方、嫌いなの。私の偽装名コードネームは【オルカ】よ。次は本当に首が飛ぶから、くれぐれも気をつけなさい」
男性はひとまず助かったと汗を拭う。そして目の前の少女に向き直る。
「分かったよオルカさん」
「それで?私に何を頼みたいって?」
「これを見てほしい」
「…………聖杯、ねぇ」