05 努々忘れてはいけない事 それは現実の過酷さですよ。(後)
―御南茂学園―
朝、今日の天気は快晴だが俺は曇りだ。
なんたって睡眠時間は六時間、もっと少ない人もいるだろうが俺にとって眠るという行為は、絶対不可侵の聖域扱いで、邪魔される事や、まして睡眠時間を削るなんて耐えがたい事なんだ。
「おっはよー!」
「あぁ、烈か」
「なんだなんだ、青春を謳歌してる高校生が朝からそんなやつれて……もしかして昨日ヤッちゃった?」
「誤解を招く事を平然と言うな」
怒る気さえしない俺は低い声で注意する。
「本当に元気ないな」
「眠いんだよ」
「宿題だろ? 秋人は本当に勉強苦手だもんな。なんで進学校を選んだんだよ」
「俺が選んだ訳じゃねぇ、親が勝手に願書すり替えてただけだ。それにギリギリ合格だったはずだし」
「へぇ~ まぁ私は新入生を代表してスピーチしたほど秀才だがな」
「……性格は最低だけどな」ボソッ。
こうして地獄の様な二日目は始まった。
そう、一時間目早々に風紀委員としての仕事が舞い込んで来たのだ。
一時間目の開始を告げるチャイムが鳴り終わると、「一年F組の秋人、仕事だ来い!」と稜姫先輩からのラブコール。
それを聞いた烈に胸ぐらを掴まれて、「後でキッチリと説明ね」と黒い笑顔で脅され、
稜姫先輩には「遅い!」とビンタを一発。
そして校則違反をした二年生三人には逃げられるわ、始末書全部押し付けられるわ、罰として三日間放課後見回り言い渡されるわ、風紀委員の先輩方からはミッチリと風紀委員のいろはを教えられ、結局解放されたのは昼休みで昼食を逃してしまった。
―教室―
「あー もうイヤだー! ただでさえ寝不足でイライラしてるってのに!」
「おいおい、私に愚痴る前に言う事があるだろ?」
俺は席に座り隣の烈に愚痴をこぼしている。
烈はいかにも不服の表情を露骨に表していた。
「あぁ、風紀委員の事」
「あぁ程度じゃないだろ? 私に黙って何楽しそうな事してるんだよ、それにあの放送女の声だったよな?」
「そうだけど、それがどうした?」
「誰だ?」
「先輩で上司」
「それだけか?」
「それだけ」
烈は俺の言葉を確かめるかのようにジーッと睨み、ふぅ。と溜息を吐いて「まぁいいだろう」と言葉を零す。
「それにしても、秋人が風紀委員の幹部ねぇ~ 私も入ってみようか」
「風紀委員は随時募集中らしい、申請書を出せば試験受けさせて貰えるって聞いたぞ」
「よし、決まった。私は風紀委員になって楽しむ!」
そう言って烈は教室を飛び出した。
善は急げ、か。
「あぁ……本音出ちゃってるよ。面接で落ちそうだな~」
と俺は冷静に烈を分析してみる。
突然だが、風紀委員には携帯が配布されている。
それは風紀を守る為に迅速な行動が求められているからだ。
そしてその携帯が今俺のポケットで鳴っていた。
「出るべき……だよな」
俺はあからさまにテーションを落として携帯に出る。
「はい、北条」
『遅い、鳴ったらすぐに出んか』
「すいません。で、何か用でも?」
『用が無いのに掛けるわけないだろう、一年校舎の中庭で乱闘だ。迅速に拘束しろ』
「了解」
はぁ~ 一年で風紀委員は今のところ俺だけなんだったっけ、だからって一年校舎で起こった面倒事全部押し付けないでほしいな~ 身が持たないから。
なんて内心で愚痴ってると、一年校舎の中庭が見えてきた。
昨日二年校舎の中庭を見たけど、やっぱり造りは同じか。
ここで、御南茂学園の説明を。
この学園には一年、二年、三年校舎と学年にそれぞれ校舎一棟が与えれていて、基本その学年校舎で勉学に励んでいる。
もちろん体育館は全学年が平等に使用する事が出来る。(ちなみに体育館は二つある)
さらに小さいが湖やちょっとした山に森林、それに合わせた宿泊施設まであって、夏には湖の浜辺と宿泊施設を生徒のみに開放するらしい。
そして、風紀委員は基本フリーだが各学年は自分の校舎が管轄だ。
一年が入学したての頃は二年生が数人見回るそうだが、一年の風紀委員が出来たことでお役御免だそうだ。
まぁ俺一人に押し付けたってことなんだけど。
そんな訳で今俺は中庭に立っている。
「風紀委員だ! そのこの四人、今すぐ戦闘行為を止めなさい!」
俺の目の前には同学年の生徒が四人、どうも他と比べて潜在能力が早く目覚めたらしく、力に酔っている。
「こんなの使わずにはいられねぇーだろうが!」
「そうだよ。僕はいっつも、いっつも虐げられてきたんだからこれくらい」
「お前で俺の力を試させて貰うよ」
「僕はお前なんかの命令は聞かないぞ!」
ここは進学校じゃなかったのか?
何でこんなに風紀っていうか、生徒の素行が悪いんだよ。
今まで我慢してきたのが爆発でもしたのか? ……そうかもな。
「あー 大人しく投降しなさい、そうしたら大目に見てやるから」
「「「「ふざけんなよォォ!」」」」
四人は額に青筋を浮かべて激昂して俺に向って走り出す。
一人は手を地面に向けて、石粒を空中に浮遊させ、一人は鉄パイプを手に握り向かってきて、残りの二人は素手で向かって来る。
どうも一人は神経強化系で、残る三人は人体強化系らいい。
人体強化系はともかくとして、神経強化系とは初めて戦う事になる。
見て思うに、どうも念動力かと思う。
「あの石粒が飛んでくんのか、めんどいな」
「喰らえー!」
石粒が三人を追い越して俺に迫る。
ちっ!
俺は五月雨を抜いて石粒を退く、石粒は退いたもののまだ肉体強化系の三人が残っている。
それにまた石粒を浮遊させ始めてやがる。
「えぇい、本当にめんどくさいな!」
俺は鉄パイプ野郎の鉄パイプを使い物にならないくらい細かく斬り刻み、峰うちで気絶させる。
「後ろがガラガラだぜだよ!」
「知ってるよ、それくらい……ッ!」
俺は瞬時に振り向き、五月雨を構える。
さすがに刀と素手では勝負にならないだろうと思っていたのに、コイツは素手のままパンチしてきた。
「僕の拳は鉄の様に堅いんだぞ」
と興奮気味に言う。
普通ならこのまま拳と刃を交えるのだが、五月雨の切れ味は鉄の塊さえも両断してしまう代物、このままだと俺は間違いなくこの少年の拳どころか命さえ斬ってしまう。
なので、俺は拳を避けながら解決案を考える。
だが、その暇すら与えてはもらえなかった。
素手で向かって来ていたのは俺の目の前にいる奴だけじゃない、もう一人いたんだ。
そいつは今俺の後ろに拳を構えて待っていた。
どうも俺は追い込まれていたらしい。
「どうだ! これが僕の力だ」
まったく、本当にめんどくさい。
こいつらも優等生って呼ばれてた部類なんだろうけど、こんなに性格って変わるもんなのか?
親が見たら泣くな、絶対。
っていうか、何か打開策考えないとな。
斬る訳にもいかないし、ホント困ったな。
そう思っている時だった。
聞き覚えのある声が俺の耳に入ってきたんだ。
「私に任せておけ~!」
と上空から声がする。
見上げるとスカートを押さえた女子生徒が落下してきていた。
そう、女王様のご登場だ。
烈は俺の後ろに待ち構えていた奴の数メートル前に着地すると同時に地面を蹴って、ミサイル並みのスピードでそいつに突進する。もちろんそんなバカげたスピードで突進されたらなんだろうと吹き飛ぶだろう。
案の定、そいつは壁突き破って校内に姿を消し、そいつの近くに居た奴にも突進、そして同じように校舎の壁を突き破って校内に姿を消す。
こえーよ。
あれ死んだんじゃないか?
っていうか手加減っていう物を本当に烈は知らないんだよな。
さて、俺の方もそろそろ方をつけるか。
俺は左右に身体を振って、瞬時にスピードを上げて右の脇腹当たりに柄の先で一突き、稜姫先輩がやっていた事と殆ど同じ要領でやってみた。
少年は昨日の金髪少年と同じように地面にうずくまる。
で、俺は烈の方を見る。
「何してんの?」
「風紀委員の仕事してんの」
「お前が風紀委員?」
「そう、試験に見事一発合格。秋人と組めって稜姫先輩って人に言われたんだ」
マジ。女王様と組めって稜姫先輩俺の安全考えてくれてんのか~?
「こんな雑魚に手間取るなよな」
「お前、手加減ってものをだな」
「大丈夫、大丈夫。あれくらいじゃ死なないって先輩言ってたぞ、まぁ秋人に限っては別とも言ってたけど」
「まー 俺は刀だしな。斬れば血は出るし」
「いいなー 私も武器持とうかな」
「ダメェェ! それは止めてお願いだから」
「えー なんでだよ~?」
そりゃー お前に武器なんて持たせたら所構わず死体が出そうだからに決まってんだろ、
実際、中学ん時は何人男子病院送りにしたと思ってんだよ。
トラウマで転校した奴も出たほどなんだぞ。
そんな奴に凶器持たせたらそれこそ兵器だよ、最終兵器女王にでもなるつもりかお前は。
「そんな事より残り一人残ってんだから」
「へいへい、アンタに言われずともそれくらい分かってますよ」
俺と烈は残り一人、神経強化系の奴を睨む。
「ま、参りました」
あっけなく負けを認めた。
そう言えばこいつ俺達と同じ中学にいたな、烈の恐ろしさは分かってるってことか。
そして俺と烈は四人を拘束して事務の人に身柄を引き渡した。
「で、まぁこれからよろしく」
「何改まっちゃってるんだよ~ 私達の仲じゃないか」
と、烈は背中を叩く。
俺の学園生活は本当に苦労の絶えない物になる事が、今この時点で確定した。
少し書き方を変えてみたつもりなんですけど、変じゃないでしょうか?
感想など頂けると嬉しいです。
あと、次話は誅戮の巫女を出したいと思います。