21 後ろを見るな、立ち止まるな、前を見て歩け。
五月下旬、もう寒さも感じなくなってきた今日この頃、俺はピンチを迎えていた。
「であるからして、明日から一週間テスト週間で~す。皆勉強しておくように。はい、おしまい」
やる気の無い、脱力感満点の声が相俟ってイライラするな。
しかも何? いきなりテストするって、しかも明日から? 予習も復習も出来るわけねぇーだろう!
進学校だからって理由はなしだぞ!?
ここでそれ出したらもう何にも言い返せないからね?
しかも、担任がこんな風貌と性格だから忘れてたんじゃないの? って疑問抱いちゃうからね。
とにかく、
「先生、なんでいきなりテストが始まるんですか?」
と、俺は先生に質問してみます。
「あ~ それがな、先生忘れてたんだよね~」
このー あんぽんたんがぁ~!
忘れてた? 教育者の言うセリフかよ、通用しないよ、っていうかそれでよく教員免許取れたな!
「先生、それじゃあウチのクラスだけ一週間先のばしってできませんか?」
「なんだ~ 北条は自信がないのか~?」
「先生、いい加減その脱力感満点の声は止めてくれませんか? イライラします」
「あ~ でもね。これが先生だから、無理」
プッチン!
俺は笑顔で問う。
「斬っていイイですか?」
「痛いから無理だな~」
「…抜刀」
「落ち着け秋人! お前がキレるなんて早々ないから最後まで見てみたいけど、先生にそれはまずい!」
烈が奇跡の発言をしている。
なんか烈の言っている事が珍しく正論に聞こえるのは俺だけだろうか?
とかなんとか思っていると、烈の鳩尾フックが見事に決まり、頭に上った血は元に戻る。
「なんか、記憶が曖昧なんだけど。烈?」
「いや、お前少し寝ぼけてたからな。夢…なんじゃないか」
「そうか、そう言えば最近寝不足だからな」
「はいそこ。漫才終わったなら、先生話し続けるけどいいかな?」
なぜだろうか、この先生の言葉が妙に腹立たしいのは。
そんな俺の思いなんて知らないよ。と言わんばかりに先生は脱力感抜群の声を惜しみなく出す。
「で~ 皆さん。ともかく明日からテスト何で、今から自習という事にしま~す」
生徒は全員沈黙で了承し、教室にはペンを走らせる音と教科書やノートをめくる音が行き交う。
俺は並々に勉強はできる。
頭が飛びぬけてイイわけでも、同情するほど悪いわけでも無く、『並み』つまりは普通という事だ。
ちなみに今まで平均点以上の点数を取ったことはない。
「なんでこんな時に限って携帯鳴んないんだよ」
「秋人、ボヤク暇お前にあんのかよ?」
「烈、お前は良いよな~ 秀才様は勉強の必要がなくて」
「まぁーな 凡人とは出来が違うのだよ、凡人とは」
「くー スゲェームカつくなその言い方」
「ははは、愉快愉快」
と、頬杖をついて俺を嘲笑う。
なんて余裕、さすが全国一位の秀才、俺とは本当に出来っていうか格が違うな。
烈の言う事を受け止めつつ、教科書に目を向けて見るが。
う~ やっぱ勉強は…合わないな
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「終わったー!」
万歳で席から立つが、「はい、そこ。先生まだ話す事あるから、座りなさい」と指を指された。
「え~ 思い出したんだけど。テスト一日目と二日目は能力検定試験なので、それなりの覚悟しておくように」
「「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇ!」」」」」」」」」」
さすがにこの発言には全員が驚きの声を上げる。
俺と烈は声を上げず、少し笑みを浮かべたのは誰も知らない。
そんなこんなでこの人は一年生全員が放課後になるとすぐさま帰宅し、家族との時間を満喫したという。
残念な事に俺は親、というか家族と過ごす時間なんて皆無。
なぜかって? それは簡単、俺は今現在独り暮らし中だからだ。
両親は二人とも海外の仕事場に転勤、兄貴は某大学で教授として教鞭をとっている。
なわけで北条家には俺一人という事で独り暮らしなわけだ。
「あ~」
大きな欠伸をして俺はベッドに横になる。
明日が楽しみだな~
なんたって勉強しなくていいんだ。
まさか学校に通ってて勉強しなくていい日が来ようとは。
直に俺は夢へと落ちて行った。
読んで頂きありがとうございました!
次話から 試験編始まります。