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どさくさに紛れて

 そう思えば自然と勇気が湧いてくる。


 私が祐也さんの事が好きであるという事が祐也さんにバレていると仮定して考えれば今まで恥ずかしくってできなかった事のハードルも下がった気もする。


 とりあえずは今私がやりたいと以前から思っていた事からやろう。


「ゆ、祐也さん」

「ん? なんだ? 彩音」

「あ、あーん……」

「ぐぬっ!?」


 と、とんでもなく恥ずかしいっ!!


 ただ料理を箸で持ち上げて異性の口へ食べさせてあげるだけという単純な動作が何故こうも恥ずかしいのか。


 心臓がうるさいくらい裂く鼓動しているのがわかるし、お箸を持っている手は緊張から若干震えている。


 そして祐也さんは突然私が『あーん』をしてくた事にびくりしたのか反応に困っているのだが、その困っている顔も可愛いと思えてくるので私は自分でも思っている以上に祐也さんの事が好きになっているのだと分かる。


「は、早くしてくださいっ。 腕を上げ続けるのも疲れるんですからっ。 ほら、あーーんっ。」

「え? あ、すまん……あ、あーん」


 そして一向に動こうとしない祐也さんへ再度、早く食べてほしいと伝えてもう一度『あーん』をする。


 すると祐也さんは『え? 俺が悪いのかこれ?」と呟きながらも口を開けて私の持つお箸に挟まれた、一口サイズに小さくした山菜のかき揚げを食べてくれるではないか。


 その瞬間、私は幸福感に包まれ、まさに幸せ絶頂といった気分になる。


 そりゃ、付き合っているカップルはみんなやるはずである。


 確かに、これは癖になりそうだ。


「それで祐也ったら私の皮を剥いたふきを見て『雑だな』って言うんだよ? どう思う、お姉ちゃんって、何やってんのよお姉ちゃんっ!! な、ななな、なんでお姉ちゃんが裕也に『あーん』をしているのよっ!! 羨ましい、じゃなくてっ、裕也も何食べてんのよっ!?」

「う、うるさいわね。 私の(・・)婚約者なのだから別に『あーん』の一つや二つぐらいしたって別に良いでしょう? だって私の(・・)婚約者なんですもの」

「ぐぬぬぬぬぬぬっ!!」


 そして私の祐也の『あーん』を見た、未だに二人で仕込み作業をした自慢をしてくる莉音が声を上げて抗議してくるのだが、私の『私の婚約者』という言葉の前では何も言い返せないのか悔しそうに歯噛みしているではないか。

 

 そもそも姉の婚約者を奪おうとする事自体をはしたないと思いなさい。


 しかし、勝手に私の恋のライバルであると認定している犬飼さんの方は未だに静かであるため、その静けさが逆に気になってしまいそれとなく私とは逆の祐也さんの右側に座っている犬飼さんへ目線を向けると、このどさくさに紛れて祐也さんの頬へキスをしているではないか。

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