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私が加害者で西條は被害者

「わ、私だってできる事ならば西條なんかと婚約なんてしたくなかったわよっ!!」


 そのあんまりな言いように私は思わず声を上げて反論してしまうのだが、犬飼さんはそんな私をより一層見下したような表情で見つめてくる。


「貴女は、祐也様の立場で今回の婚約を考えた事はありますか?」

「どういう意味よ……っ。 まさか、流石に西條も半ば強引に嫌だけど仕方なく婚約したなどとは言わないでしょうね?」 

「……四千人弱。 この数字が何か分かりますか?」

「その数字が何だと言うのかしらっ?」

「貴女の婚約を破棄した時に路頭に迷う人数です。 さらに親しくはないが毎日顔を合わせる女性が一人にその家族。 見方を変えれば、それらを人質にして祐也様に婚約を迫ったのですよ。 それがどれほど最低な事か分からないとは言わせません。 どっかの頭の弱い女性が『好きな人じゃないと嫌だ』と文句を言っては見下し、罵倒しているその相手は、そのどっかの頭の弱い女性のせいで四千人を人質にされて逃げ場を無くした状態で婚約を承諾していると言う事が、ここまで言っても未だに理解ができないんですか? と私は問うているのです。 貴女ならば、クラスのあまり話さない男性と『拒否したら俺と俺の家族の他に、四千人が不幸に成るし自殺する人も出て来るだろう。 でも俺と婚約すればそれら全ては救われるけどどうする?』と持ちかけられたらどうしますか? 四千人の未来を潰す選択肢を取れますか?」

「そ、そんな事急に言われても……」

「貴女はまだ良いですよ。 なんだかんだ言っても家族の為にと言う大義名分がありますから。 祐也様が貴女にキツく当たらない事を良い事に調子に乗って祐也様の事を見下すなど、それがたとえ祐也様が許そうともこの私、いえ、ここの使用人達は黙っておりませんから。 その平和ボケした頭で少しは貴女も、貴女の家族も、父親の会社やそこで働く社員達は祐也様が半ば無理矢理とはいえ貴女との婚約を選んでくれたからこそ最悪の事態にならずに済んだという事を考えなさい。 この婚約に関しては貴女が祐也様にとって加害者であり、祐也様こそがこの婚約の被害者であると言う事を履き違えないで下さい。 それでは」


 そして犬飼さんは言いたい事を言い終えたのか、もう私には用は無いとばかりに私の部屋から退出していく。


「この婚約は、私が加害者で西條が被害者……」


 犬飼さんが言った言葉から考えてみればどう考えても今回の婚約の加害者は私で、西條は被害者である。


 その事実に私は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けてしまう。

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