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何も無かった

 


「それで、どうでしたか?」

「……なんの事かしら」


 時間が経つのはあっという間で使用人などに西條祐也の事を聞き周り、自分なりに考察などをしてかなり考え込んでしまっていたのか、いつの間にか夕方になっていたらしい。


 学園から帰ってきた犬飼さんに声をかけられたのだが、取り敢えず意味が分からないと誤魔化しておく。


「無駄ですよ、彩音さん。 今日の彩音さんの行動は全て私に筒抜けですから」

「なっ!?」

「あ、流石に祐也様には彩音さんが祐也様の家での態度や使用人に対する態度などを嗅ぎ回っていたという事は伝えておりませんので」


 一瞬、終わったと思ったのだが、どうやら私は何とか首の皮一枚で繋がっていたらしく、私は安心感から身体の力が抜けてヘナヘナと床にへたり込んでしまう。


 しかしながら依然として私の生殺与奪権は犬飼さんにあるので油断は禁物である。


 もし西条、いや圭介であろうと私の事を私の近しい人達に裏で聞きまくっていたとしたら間違いなく私は縁を切るレベルで引くだろう。


 それぐらいの事を私はしていたのだと改めて痛感する。


「ひ、卑怯よっ!」

「卑怯? 面白い事を言いますね。 裏でコソコソ祐也様の事を嗅ぎ周っていた貴女には言われたくはないですね。 あと、使用人に聞けば同じく西條家に雇われの身である私にまで連絡が来るとは思わなかったのですか?」

「う、うるさいわね……」


 普段では西條の後ろに隠れて西條の影のように過ごしている犬飼さんが、西條の事となると人が変わったかのように、それこそまるで西條のように憎ったらしい雰囲気で私に話しかけてくる事からも、きっとそれ程までに西條の事を信頼しているのだろうという事が伺えてくる。


「何も無かったわよ……」

「何が無かったのですか?」

「私が思っていたような、普段のイメージから想像できる西條ならばきっと使用人達から嫌われていると思っていたのにそんな事は全然なくて、何なら使用人からは好かれていて『ぼっちゃまをよろしくお願いします。 若奥様』なんて言われてしまう始末よ。 もうどの表情の西條が本当の西條なのか分からなくなってしまったじゃない……」

「貴女……馬鹿なの?」

「…………」


 本当はどっちが本当の西條であるかなど分かってはいるのだが認めたくないのだ。 認めてしまえば今までの私は人の上辺だけしか見ない人だという事になってしまうから……。


「本当に、貴女は昔の大っ嫌いで最低な貴女のまま、あの頃からも変わってないんですね。 どうせきっと祐也様を認めてしまったら今迄の自分の行いがいかに最低なのか分かってしまい、そしてその現実を受け入れたくないだけですよね? 本当は祐也様が貴女の妹を強姦されそうな所を助けてくれた時から薄々分かっていたんじゃないんですか? 本当、なんでこんな人が祐也様の婚約者になるんだか……」


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