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そんな訳がない



 西條祐也が私の元から離れても尚、私は数分間頭を上げる事ができなかった。

 

 初めは何を言われたのかすら理解できなかった。 いや、言葉の意味は理解できるのだが、それを西條祐也の口から出た言葉であるという事に理解がなかなか追いついて来なかったのだ。


 これではまるで今回の婚約の最大の被害者はアイツではないか。


 私はまだ家族や従業員などを守れるというメリットがあるが、もしアイツが私との婚約を望んでいないのだとすれば何一つメリットは無い事になる。


 むしろ、好きでもない相手と婚約させられる上に多額の金銭の援助に経営が傾き毎年赤字を垂れ流す北条グループというある種の負債まで抱え込むというデメリットとしては余りにも大きすぎるデメリットが西條祐也にのし掛かる訳になる。


 そうなれば、この婚約の加害者は私の親で、被害者は西條祐也となってしまう。


 そして私は何も知らない子供という立ち位置で、西條祐也はそんな私に事の真相を隠そうとしている?


 本当は自分が一番辛いはずなのに……?


 そこまで考えた所で私は頭を振る。


 そんな訳がない。


 だって私は確かに見たのだ。


 形だけのお見合い時のアイツの目と態度を。


 アイツはクズで性格は最低で、自分の事しか考えられず、常に他者を見下し横柄な態度を取るような奴である。


 とでもではないがそんな奴に、先ほどまで私が考えていたような事があるとは思えない。


 しかしながら、何故だか分からないのだが今日見た犬飼さんと話すアイツの表情が頭から離れないのである。


 でも、それらがアイツの演技だったとしたら……。 


 それに先ほどは、きつい言葉ではあるが内容は私を気遣うような言葉を私に投げかけてきたのも確かである。


 そんな訳がないと何度も何度も思うものの、それを否定するアイツがいるのも確かなわけで……。


 そこまで考えた時、私のスマホから電子音が鳴り響き、取り出すと莉音という文字が画面に浮かんでいた。


『もうお姉ちゃんっ!!何で私に連絡もしないで勝手に帰宅してんのよっ! しかも先に帰ったのに家にいないしっ!! 一体今どこにいるのよっ!? まさか西條祐也の家じゃないでしょうねっ!?』

「ごめん、そのまさか」

『な、何でっ!? 今日は別にそっちに泊まるように言われてないのよねっ!? ま、まさかアイツに無理やり──』

「そんなんじゃない。 私が自分の意思で来たの」

『どうしてまたっ!? 脅されてたりするんじゃないのっ!? 分かったっ!! 今後ろにアイツがいるんでしょうっ!! ホンットに最低ね、アイツッ!! お姉ちゃんの事を何だと思っているのよっ!!』

「落ち着いて莉音っ。 ほんとに何にも言われてないし、それに今アイツはここにいないから。 …………そもそも相手にもされなかったし……せっかく迎えてやったのに門前払いに近い対応をされた? みたいな?」


 自分で言う事で相手にもされないという事実を再確認するとともに、なんと情けないことか。 思わず乾いた笑いで誤魔化すのだが、それが余計に惨めな気分になる。

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