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俺のオアシスはお前だけだ

 そしてそう言うと犬飼さんはそのまま服を脱ぐと、もう私たち姉妹には興味ないとばかりにお風呂場へと向かって行く。


「……………」

「お姉ちゃん?」

「な、何でもないわっ! ほら、早く着替えて部屋に戻りましょうっ」


 そんな犬飼さんの後ろ姿をお姉ちゃんは複雑な表情で見つめていた。


「何でもないって、何でもないような表情には見えなかったのだけれど? それよりもお姉ちゃん」

「な、何かしら?」

「退学して身体を売ろうと思ってたの?」

「そ、それは……最悪の事態になったら最終手段でそうしようと思っていただけで、やれる事は一通りやってみて、それでもどうしようもないと思った時の話よ。 それでも莉音を大学卒業させる事ができれば足を洗うつもりだったし……」

「お、お姉ちゃん……」

「なんて顔をしてるのよ、莉音。 それに、犬飼さんが言っていたように祐也君のお陰で父親の会社は何とか倒れずに済んだ訳だし、私もこうして身体を売るとか考える必要も無くなったんだから。 だからほら、そんな顔しないのっ!」


 そうは言ってもお姉ちゃんが犠牲になったという事には変わりない。


 そんな顔をするなと言う方が無理な話である。


「お姉ちゃんは、それで良いの?」

「私はこれでも感謝しているのよ? だって祐也君が私と婚約してくれたお陰で誰も不幸にならなかったんだもの」

「でも、お姉ちゃんはそのせいで好きでもない人と婚約する羽目になった──」

「はいはい、この話はもう終わりっ!! それに、実際祐也くんとの結婚生活は意外と幸せかもしれないよ?」


 そしてお姉ちゃん無理矢理この話題を終わらすのだが、やはりどう見てもお姉ちゃんの表情は幸せそうには見えないと思うのであった。


 


「帰ってなかったのかよ……」

「どうせなら天下の西條家の出す朝食を貪ってからにしようと思ったまでよっ!!」

「何で婚約者の妹であるお前が無駄に偉そうなんだよ。 要はタダ飯喰らいじゃねぇか」

「い、言い方ってもんがあるでしょっ!? デリカシーが無さすぎるんですけどっ!? こんなんでお姉ちゃんを幸せにできると思ってたら大間違いなんだからねっ!?」

「まったく、朝から眩暈がしそうなんだが……」


 てっきり朝になった瞬間姉と一緒に帰っていると思っていた俺は姉妹がまだ西條家におり、そして一緒に朝食を取ると言った時は、はっきりいて今日は槍でも降るんじゃなかろうかと割と本気で思ってしまう。


 てか、妹の声が寝起きの頭に響いて冗談抜きで目眩がしてくる。


「大丈夫でしょうか? 祐也様」

「あぁ、俺のオアシスはお前だけだ……美咲」

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