悪役、西條祐也
「と、とりあえず落ち着こうぜ? な?」
そして気が付いたら目の前で北条姉妹がキャットファイトを始めようとしているところだったので慌てて仲裁にはいる。
「裕也さんがキスしてくれるっていうなら……」
「裕也がキスしてくれるって言うなら……」
そしてシンクロする姉妹の要望。
もしかしたらこの要望を言う為の演技だったのでは? と思えてしまう程に美しいほどのシンクロ具合である。 このシンクロ率ならば某汎用人型決戦兵器も操縦できそうである。
とりあえず俺は、どうやら藪をつついて蛇を出した事だけは理解できた。
そして俺の事を不安そうに見つめてくる彩音と莉音に、どういう回答が一番当たり障りなく断れるのか考えていると、美咲が俺のケツを『ぱしんっ』と軽く叩いて来るではないか。
「なにビビッているのですか。 あの時から表では悪ぶって来たというのに、こと恋愛事となると急に尻込みして……。 今の裕也様をあの時の裕也様がみるとどう思うでしょうね? しっかりしてください」
まさか美咲が俺のケツを叩いて来るなんて、意外過ぎて硬直している俺に向かって、当の本人である美咲が『しっかりしろ』と発破をかけて来るではないか。
あの時の俺が今の俺を見たらキット『婚約した時点で彩音の処女を奪わない時点で生ぬるい。 変に情けをかけてしまったから今面倒くさい事になってんだよ』と言われるだろうなと思う。
しかしながら『だから死亡エンドを迎えたのだろう?』と言い返してやりたいのだが、確かに俺がいい加減な態度を今まで取って来たからこそ今があるのは間違いがない。
彩音と婚約したあの日に処女を奪わなくとも北条姉妹から嫌われる手段はいくらでもあったのだ。
だから、結局のところ今の現状は悪人になり切れなかった俺のせいだろう。
死亡フラグから逃げてきたのと同時に悪役としても逃げていては西條祐也らしくないではないか。
「はははっ!! なるほど、なるほどねっ!! いいじゃねぇかっ!! 悪役、西條祐也としての悪役ムーブを決めてやるよっ!!」
そして、今の自分を客観的に見れた事と美咲から発破をかけてもらったお陰で吹っ切れた俺は決断する事が出来た。
後はその答えを、いきなり笑い出した俺を見て怪訝そうな表情で見つめて来る彩音と莉音に叩きつけるだけである。
「分かった。 お前達二人にもキスしてやるよ」
「遅すぎますっ。 どれだけ私は待っていたと思っているのですか? しかも犬飼さんに先を抜かされるし……は、初めてなので優しくしなさいよ? んっ」
「へっ!? 祐也っ!? ちょっとまってっ! まだ私心の準備が、うむぅっ!?」




