木の記憶
何気なく生えてる近所の木を見て書き出した何となく作品。
長らく活動していなかったので、リハビリ作です。
むかしむかし、そのむかし
とある村のはしっこに
それは大きな木が立っていた
その木は遠い昔に種から芽吹き
長い年を掛けて大きく大きく成長した
大きくなるにつれて、人が近くに住み着き、やがて小さな村ができた
ある日村の娘が木の下に小さな小箱を埋めた
「どうか、これだけは」
ぽろぽろとこぼれる雫は太陽に照らされてキラキラと光っている
埋めた土の上に枯葉をのせると
そこに埋めたことも分からなくなった
娘はしばらくじっとしていたが
振り切るように走り去っていった
それから3回ほど季節が巡ったある日
見慣れない男がやって来て
木に手を着いて言った
「探しているものが見つからない、どうしても必要なのだ」
苦しそうにそう呟いて男はその場にしゃがみ込む
「あの子が持っていたものは全て売り払ったと言われた。母の形見である指輪さえ見つかったなら、すぐにでも連れ出すのに」
どうやら訳アリのようだ
「今日見た限り、満足に食事も摂らせていないようだった。何も出来ない自分が悔しい。綺麗だった黒髪はツヤもなく、目は落窪んで…ああ、どうしたらいいのだ??」
木はしばらくその様子を見ていたが、ふと遠くに人影が見えた
あれはたしか村の娘ではなかったか
そういえばいつだったか小箱を埋めていた
木は根っこを動かしそっと小箱を押し上げた
カタッ
音に気づいて男が小箱を拾い上げる
「なんだこれは…??」
小箱を開けた男の目が零れるくらいに見開いた
「母の形見の指輪…どうして…」
「それだけは守りたかったの」
男が振り向くと娘は向かいの木の影から男の前に姿を見せた
「他は全部あの人が言った通り売られてしまったから」
娘は前に見た時とほとんど同じ背たけで痩せひっこけた体で立っていた
風が吹けば飛びそうである
「服に縫い付けていたのを見つかりそうになって、ここの木の下に埋めて隠したの」
男はそっと娘を抱きしめて言った
「沙羅、私と一緒に村を出よう。この指輪があれば、お前の身元が明らかになる。もう、誰にも傷つけさせやしない」
「兄様」
二人で泣いて落ち着いた頃、娘が首を傾げて言った
「そういえば兄様、どうやってこれを見つけたのですか?私、この木の下に埋めていたんですよ?」
「音が聞こえて見たら落ちていたんだ。もしかしたらこの木が見つけてくれたのかもしれない」
娘が大きな木に目をやると、風もないのに葉がさえずった
「もしもそうなら、ありがとうございます。私兄様とここを離れます」
「私からも礼を言う。ありがとう」
礼を言われて木は嬉しかった
2人は手を取り合って村から去っていった
その日村は騒然としていた
どうやら村長の嫁が村人から集めた国に納める金を盗んだらしく捕まったらしい
らしいというのは、村人の噂話を又聞きしているからだ
更に娘のような子ども達を朝も昼もなくこき使い、死人まで居るという
「あの奥様がこんなに酷い奴だったなんて」
「俺たちゃあの優しそうな顔に騙されてたんだなぁ」
遠くて金切り声を上げて振り乱した奥様がいた
役人に両脇を抱えられ、引きずられるようにして村から出ていった
あれからたくさんの季節が巡って人も入れ替わり村は町になった
藁の屋根から瓦の屋根になり、今はコンクリートジャングルが広がっている
そのはしっこにその大きな木は今でもひっそりあって、人々の話を聞いているとかいないとか