構うな!
「どうせ死んじゃうのに、頑張る意味が分かんない。」
クラスメイトの狭山はそう言った。
バスケ部の部室、
まだ入部して数日の、四月晴れの日だった。
同じクラスで同じバスケ部で、仲良くなれたらいいなと思っていた奴の口からとんでもない言葉が出たもんだと驚いた。
「そんなに今日の部活しんどかったか?」
俺はタオルを首から下げて平穏を装いながら狭山の方を見ないで言った。
「だからって、死ぬとか物騒なこと言うなよな、心臓に悪いぞ。」
これから嫌でも毎日顔を会わせなきゃならない相手だ。牽制出来るのならばしたい。が、無理だ。
「死んじゃうのに。」
また狭山は同じ言葉を繰り返した。
「誰か死んだのかよ。」
「俺。」
「マジかよ、じゃあこれって俺の独り言かよ。」
「そうなんじゃない。」
マジかよ、マジでヤバイ奴かよ。見た目爽やか君のくせして中身は痛いのかよ。そういうのは中学で卒業しといてくれよ。
「鹿谷」
「あ?」
「俺のこと痛い系とかって思っちゃってる系?」
「他にどう思えって言うんだよ。」
「うん、俺痛い系なんだよな。」
分かってんなら言わなきゃいいのに。
こいつは阿呆なんだな。
「お前、阿呆だな。」
この台詞は俺じゃない、この台詞を言ったのは狭山だった。
「こういう阿呆なこと言った奴に律儀に返事返そうとすんな、つけこまれるぞ。」
つけこまれる?漬物になるのか?そう言えば、婆ちゃんのキュウリの浅漬け最近食べてないなぁ。
「つけこまれて、構われて、気がつくと俺無しじゃいられなくなる。」
「俺がそんな酔狂な人間に見えるのかよ。至って普通のどこにでもいるただのイケメンだ。」
虚勢を張った。狭山のペースに持っていかれる。
さっきまで不機嫌そうな面してたくせにニヤニヤしやがって腹立つ。
「俺のことが気になってしかたがない?構いたくなった?」
「構わねーよ。面倒な奴だって今知れてよかった、明日からは微妙な距離感で話させてもらう。」
着替えもとっくに終わっている。後はドアを開けて出ていくだけだ。友達候補が一人減ったぐらいだ。気に病むことはない。俺はコミュ力ある方だ。
「じゃあ、俺はもう帰る。」
鞄を持って狭山の方を見ないで通りすぎようとした。
「じゃあ、俺が構うことにする。」
狭山がこっちを見て言った。
「構うな!」