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第七話

第四章 七話です。

 ライルが口にした衝撃の事実。

 “自分以外の全員が殺される”という言葉に、ローラは思わず言葉を失ってしまう。

 彼が嘘をつくようには思えない。

 しかし、レイラという存在が今この場で殺されてしまうという過去は、あまりにも救いがなさすぎた。


「———ッ、ライルさ―――」

「来るぞ」


 ようやく我に返り説明を求めようとすると、周辺の歪めが消え、新たな景色が形作られる。

 今度は一体なんだ、と身構えていたローラであったが、自身の目の前に広がった“赤色”が支配する光景は、彼女が予想したそれより、遥かに悪いものであった。


「これが、あの後に起こったことだ」


 目の前に広がっていたのは、炎に包まれた教会の景色。

 天井も、祭壇も、長椅子も、先ほどまで生きていた人でさえも血に濡れ、地面に倒れ伏していた。

 ある者は溺れたように。

 ある者は恐怖に顔を歪ませ。

 ある者は自ら命を絶ったように、自身の手で首を絞め絶命していた。


「なん、ですか……これ」


 先ほどの状況から、何がどうして今のような事態になるのだ。

 あまりにも突飛な状況にローラは無言のライルへと詰め寄る。


「悪魔の仕業だ」

「あ、ああ、悪魔って、どうしてこの人たちを!? だって崇拝していたんでしょう!?」

「悪魔からしてみれば利用していただけだけだ。多分、黒髪の子供を使って何かしらの黒魔術の儀式でもしようとしていたんだろ」


 そのままゆっくりと歩を進めていくライル。

 夢の中の景色なので、匂いもなにも感じない。

 地面に転がる幾人もの死体を避けていく中で、ローラは先ほどライルを強く殴った老人の司祭の死体を見つける。

 死ぬ直前まで恐怖に怯え、痛みに苦しんでいたのかその顔は歪んでいる。

 なぜか右腕の肘から先はなく、まるでつい先ほどまでに拷問を受けていたかのようだ。


「……あれだ」


 祭壇が真正面から見える場所に着くと、未だそこに生きている者がいることにローラは気付く。

 かすかに胸を上下させ、浅い呼吸を繰り返している少年、過去のライルだ。


「ラ、ライルさん……よ、よかったぁ、生きてました」

「……俺がここにいるってことは死んでないってことだからな」

「そ、そんなの分かってますよ」


 ライルの冷静な指摘に赤面しつつ、過去のライルへと目を向ける。

 彼は痛々しく腫れあがった頬を押さえながら、呆然とした様子で中空を見ていた。

 彼の周囲には誰もおらず、ただ燃える教会だけがそこにあった。


「悪魔は、去ったんですか?」

「……いいや。外を見てみろ」


 ライルに促されるままに、半ば割れている教会のステンドガラスから外の村の景色を見る。

 その時、ローラの目に飛び込んできたのは、目の前の光景が生易しく思えるほどの、破壊と破滅に彩られた地獄。

 村にあるほぼ全ての家屋から煙が上がっている。

 聞こえてくるのは、多くの人々の叫び声。

 ローラは、この場で起こっていることが村の規模で行われていることに気付いてしまう。


「ひどい……こんなの、あんまりです……」


 この村に住む人々は人でなしではあるが、ここまで残酷に殺されていいはずがない。

 ローラは夜の暗闇の中に、空飛ぶ何かを見つける。


「……?」


 それは、ライル達のいる教会へと尋常ない速さで近づいてくる。

 すぐさま、ライルにそれを伝えようと振り返ると、彼は何かに耐えるようにその瞳を閉じていた。

 彼には、これから何が来るか分かっていた。

 数秒の後に燃え盛る教会に轟音が襲い掛かる。

 教会の天井近くのステンドグラス突き破り現れたのは、白いワンピースの黒髪の少女であった。

 少女は、子供のライルの姿を見つけ年相応にはにかむと、ゆっくりと地面にはいつくばっている過去のライルの元へとやってくる。

 彼女の瞳からは光が消え失せており、その代わり虹彩は黒く淀んでいた。


『お待たせ』

『レイ、ラ……』


 その姿にローラは驚きに目を見開く。

 いくら彼女にとって見覚えのある姿といえど、あまりにも衝撃的すぎたからだ。

 ライルの義理の妹、レイラ。

 普通の人間だったはずの彼女が何もない空中に浮きあがり、過去のライルを見下ろしていたのだから。

 それを認識したローラはすぐさま、隣のライルへと詰め寄った。


「どういうことですか!? なんで、レイラちゃんが……」

「———悪魔は、肉体を得ようとしていた」


 レイラと視線を向けたまま、ライルは言葉を発しはじめる。

 彼にとっての悪夢。

 レイラが変わってしまった絶望の日。

 その全てが今に繋がってしまっていた。


「悪魔はこの世で活動するために人間の身体がいる。元になった肉体に特殊な素養があれば、憑りついた肉体はより強く、より頑強なものへと変わる。ここで祀られていた悪魔が、黒髪の子供を集めるように命じたのは、それが目的だった」

「それじゃ、悪魔が選んだのは……」

「レイラだ」


 悪魔に憑りつかれたレイラ。

 彼女は、ライルへと手を向ける。それだけの挙動で、彼の身体が宙へ浮き上がり壁に叩きつけられる。

 ドスン、という強烈な衝撃に未だ子供であるライルが耐えられるはずもなく、苦悶の声を漏らし痛みに悶える。

『このまま悪魔に乗っ取られた彼女にライルが殺される!』

 そう思い、隣のライルと過去のライルの顔を交互に見て、焦燥に駆られていると宙に浮いているレイラがあどけない笑顔を浮かべる。


『お兄ちゃん、ごめんね。まだ力の加減が分からなくて……』


 え? 呆気にとられた声をローラが零す。

 悪魔ではない。

 禍々しい気配を発しているのは、彼が妹と呼んでいた少女そのものだった。


「———悪魔の目論見は外れた」


 目の前で再現される過去の光景を睨みつけたライルは吐き捨てるようにそう言い放つ。


「レイラは自分を乗っ取ろうとした悪魔を逆に取り込んだ。悪魔からしても想定外だったろうな。あいつは、人間であるにも関わらず、悪魔を食らって、自分自身が悪魔になった」

「そ、そんなこと、ありえるんですか?」

「前例はない。だが間違いなく、あいつは……レイラは悪魔の力を呑み込み、顕現してしまったんだよ」


 悪魔を食らってしまうほどの魂。

 いたいけな少女だったはずのレイラになぜそれができてしまったのか。

 以前として険しい表情のライルが状況を見守る中、壁に磔にされた過去のライルが、痛みに悶えながらも必死な様子レイラへと叫び始めた。


『レイラを、返せ! この悪魔め!!』

『わたしはわたしだよ? お兄ちゃんの妹のレイラだよ?』

『そんな訳ないだろ! お前が、優しいお前が、そんなっ……人殺しなんかするはずがない!!』


 壁に磔にされたまま過去のライルがレイラへとそう訴えかけるが、彼女は依然として笑みを張り付けたまま表情を崩さない。

 だが、当時のライルは分かってしまっていた。

 目の前にいるレイラが紛れもない本物だということに。

レイラは悪魔になりましたが正気です。

悪魔に影響されたとかそういうことはなく、なにも変わっていません。

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[一言] 「見たことを後悔するお話、その二」
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