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第三話 

第四章 三話です。

 フィネガンが屋敷を出たその後、悪魔と相対するための準備を整えたライルとローラ。

 彼らはフィネガンから教えられた場所で落ち合うべく、屋敷を出て街へと繰り出した。時間的にもまだ明るいからか、街では人が溢れている。


「落ち合う場所は商業区の露店か。ここからそう遠くないな」


 その中を歩きながら改めてライルが目的の場所を呟く。

 しばらく、民家が立ち並ぶ大通りを進んでいくと、横目でライルを見ていたローラが何を思ったのか彼に話しかけてきた。


「ライルさん、フィネガンさんってどういう人なんですか?」

「悪魔専門の狩人だ。悪魔を毛嫌いしている奴ではあるが、基本的に人当たりのいいやつだ。見た目からは想像もできねぇがな」

「……」


 ライルが好意的な印象で人を紹介するのは何気に珍しいことである。

 基本的に誰彼構わず悪態をつくような性格の悪い男ではあるが、フィネガンという男に関してはそれほど悪い印象は抱いていないのか幾分か、親しみがあるように思えた。


「友達なんですね」

「違ぇよ。仕事上何度か手を組んだことがあるだけだ。年も近いこともあって、奴の上司から組むように勧められているんだろうよ」

「ライルさんの狩人の仕事とは何が違うんですか?」

「俺は、悪魔以外も対処してる。フィネガンは、悪魔狩りを主とする教会の一員として、悪魔の滅殺を目的としている。……主な違いはこのくれぇだな」


 専属とフリーの違いという感じか、とローラはなんとなく二人の立場関係を理解する。


「……そういえばライルさんっていくつなんですか?」

「今更過ぎるだろ……」


 見た目的には三〇手前くらいに思える。

 無精髭だし、鋭く疲れ切った目のせいで老けてみえる。

 今更な質問に重いため息を零したライルは、素直に答える。


「二十三だ」

「は? 歳を誤魔化さないでくださいよ」

「酷ぇ言い草だな……! 俺は正真正銘の二十三だ!!」

「嘘ぉぉぉぉ!?」


 街中にも関わらず驚きの声を上げてしまうローラ。

 この老け顔で二十三とか詐欺ではないか!! 少なくとも十八歳のローラと十以上離れていると思っていたが、それほど年齢が離れていない事実に、彼女は素で驚いた。


「そ、そしたらフィネガンさんは……?」

「二十五だ」

「あんな貫禄のある人が二十五歳な訳ないでしょう!?」

「それに関しては同感だ。実際は、悪魔と戦うとかなんとかで鍛えすぎただけらしいけどな」

「どんな体してんですか、あの人」


 まさかまさかの事実に驚きっぱなしのローラ。

 フィネガンは明らか男性の平均身長と体格を超えていた。


「冒険者として活動していたら、さぞかし有名になっていたでしょうね……」

「いや、そりゃ無理だ」

「え? どうしてですか?」


 ライルの否定の言葉にローラは首を傾げる。


「あいつは魔力をほとんど失っているからな。日常生活で魔具を扱える程度の魔力はあるが、戦闘面では全く使えねぇんだよ。まっ、全く存在しない俺よりはマシだけどな」

「え? それって」

「そろそろ商業区だ」


 意識を切り替えたライルが、肩にかけたカバンを持ち直す。

 悪魔がいる場所―――その時点でどこにいても安全な場所はない。


「今回に限っては、お前は荷物持ちだ。悪魔がいる場所には近づかせねぇからな」

「分かってますって、ついていきたい気持ちはありますけど、迷惑をかけたいわけではありませんからね!」

「……分かってんならいい」


 事前にライルから忠告はされていた。

 悪魔は人の弱みに付け込み、惑わすことを得意とする存在であり、心の弱い人間は相対することすら叶わない。それどころかその甘言に騙され敵対してしまうことすらありえてしまう。

 ローラ自身、悪魔に対する認識は、未だによく分からないというものではあるが、その危険さは黒魔術の書の件で身をもって体験していることから、彼の忠告を大人しく聞いていた。


「でも悪魔っていうのは、そんなに簡単に人の中に溶け込めるものなんですか?」

「悪魔は人間の身体を乗っ取るんだよ。乗っ取った人間の記憶を覗き込み、その体を無理やり動かすことで常人以上の力を発揮させてくる」

「……えぇ」

「まあ、下っ端の悪魔ならそれほど脅威でもねぇが。名前付き―――古くから存在している悪魔は、それぞれが固有の能力を持っている。今回、相手をする“惑わし狂いのケケル”がそうだ」


 ———そんな悪魔と今から相対しようとするなんて、本当に大丈夫なのだろうか。

 なんともない様子のライルに疑問に思いながら、ローラは彼と共に悪魔の潜む商業区へと足を踏み入れる。

 誰が聞いているか分からないことから、会話は最小限にとどめながら歩を進めていくと、フィネガンと落ち合う場所―――椅子とテーブルが並べられた飲食店の中に、かなり目立つ大柄な男の姿を見つける。

 彼は、いかつい印象とは違い、優雅な様子で紅茶を口にしている。

 傍目で見ればかなり異様な光景である。


「来てやったぞ」

「ああ、待っていたぞ」


 どかり、とやや乱暴に椅子に座るライルと、断わりをいれてから隣に座るローラ。

 育ちが目に見えて分かる二人を前にし、カップをテーブルに戻したフィネガンは伏せていた目を開いた。


「問題が発生した」


 開口一番の緊急事態にローラの頬が引き攣った。

 ライルは額に手を当てて、溜息を零している。


「……聞きたくないが……なにがあった?」

「悪魔に憑りつかれていた少女の父親は既に死亡していた。先ほど、はずれの下水に死体が流れ着いていたのを、この都市の教会の人間が発見した」

「……お前の手下が監視していたのは、幻覚だったって話か」

「不甲斐ないことに、その通りだ」


 相手の悪魔の方が上手だった。

 その事実に眩暈を起こしかけながら、ライルはフィネガンへと質問を投げかける。


「後に判明したが、少女には病に伏せた妹がいたらしい」

「悪魔にとって体の不調は関係ない、か。その子が憑りつかれているんなら、さっさとなんとかしねぇとまずいな。特徴を教えてくれ」

「歳は十六歳ほど、髪は茶色、背丈はそこのメイドと同じほどだ」

「……しょうがねぇ。情報が少ないが、これでやってみるか」


 悪魔は憑りついた人間の身体を無理やり動かすが、憑りついた人間に負担がないはずがない。

 例え、肉体が死んだとしても悪魔は動かし続けることが可能だが、そうなってしまえば憑りつかれた人間の命を救うことができなくなる。

 懐から取り出した手帳に、少女の簡単な特徴を記しているその時―――店の従業員らしき少女が、注文を伺いにきたのかライル達のいるテーブルへと近づいてきた。


「いらっしゃいませー。ご注文はありますでしょうか?」

「あ、ライルさん。そういえば私、お昼食べてないんです。おごってください」

「……はぁー。呑気な奴だなお前は。待ってやるから適当に頼め」

「はーい」


 こいつ連れてくるんじゃなかった、と後悔しながら額を押さえるライル。

 うきうきとした様子でメニューを手に取ると、メニューを指さしながら従業員へと注文をする。


「あっ、それじゃあ、このチキンのセットでお願いします。ジャムもつけてくださいね」

「はい。ご注文の方を、確認いたします」


 そう言って従業員の少女が取り出したのは料理の注文をメモする手帳ではなく————手帳サイズの小さな黒い本。

 それをライルとフィネガンが確認した直後、彼らの周囲に座っていた者達が一斉に立ち上がり、一瞬飛び掛かっていた。

 経験と勘の鋭いライルすぐに反応し、周囲の手を避けると同時に呑気な顔をしているローラの襟首を掴み取り、そのまま距離を取った。

 フィネガンはその肉体と手に持った杖で周囲の者を薙ぎ払い、無理やりに避け、ローラの襟を掴んだままのライルと並び立った。


「フィネガン、こいつら悪魔じゃないよな?」

「黒魔術で操られている一般市民だろう。……全く、オディールの教会本部は何をやっている。後でお前から文句の一つでもいっておいてくれ」

「そうしておく。おい、ローラ。大丈夫か」

「お、おぇ……く、首が、し、しまって……」

「大丈夫そうだな」


 涙目で顔を青ざめさせているローラを確認してから、聖水の入った小瓶と斧を取り出したライルは———黒い手帳、黒魔術の書を持つ茶髪の少女を睨みつける。

 フィネガンから聞いた悪魔に憑りつかれた少女の妹の特徴と一致している。


「はじめまして、ケケルと申します」


 “惑わし狂いのケケル”

 傍から見れば、儚げな少女。

 しかし、その瞳の奥は禍々しいほどに淀んでいた。

黒魔術の本とかいう便利道具。

まず人間じゃ扱えない欠陥品。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ライルはまだ二十三歳だから。 [一言] >「そ、そしたらフィネガンさんは……?」 「二十五だ」 「あんな貫禄のある人が二十五歳な訳ないでしょう!?」 「それに関しては同感だ。実際は、…
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