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無能狩人の事件記録~境界に生きる者~  作者: くろかた
第二章 かつての絆は怨恨へ
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第一話 

第二章 第一話です。


最初は導入からとなります。

 いつも通りの変わらない日常。

 血気盛んな男たちが酒盛りをし、騒ぎ立てる。

 自分の、もしくは仲間の冒険譚を嬉し気に語る光景。

 危険な任務に身を投じ、苦難を乗り越えてこの場所に帰ってくる彼らを迎えること。

 それが、冒険者の集う宿を営む彼、ジェイコブ・ミリアードの騒々しくも楽しい日常であった。


「オヤジ! 酒を頼むよ!」

「あいよぉ、すぐに持ってくるよ」

「ここは最高の宿だぁ! はははは!」

「へいへい、おべっかが上手なことで……」


 馴染みの顔の冒険者の言葉に気前のいい返事をして、酒の保管している倉庫へと足を運ぶ。


「全く、ここに来る奴らは大酒のみばかりで困る困る……」


 きっちりと積み上げられ整頓された倉庫を漁る。

 冒険者は粗暴な連中も多少なかれいるが、それに目を瞑れば陽気な連中に違いない。

 自らも冒険者上がりだったこともあり、ジェイコブは彼らには理解があった。

 かつては自分も無茶をしていた。

 褒められた生活をしていたわけでもないし、ここまでくるのに相当な時間をかけたし苦労もした。

 だからこそ、今の自分の仕事は死ぬまで付き合っていくであろう天職であることを確信していた。


「っし、この木箱だな」


 どさり、と酒瓶の入った木箱を持ち上げる。

 恐らくこれでも足りないだろう。

「また、持ってくる羽目になるだろうなぁ」と笑みを混じらせながらそう呟き、木箱を運び出す。


『——』

「ん?」


 その時、誰もいるはずのない背後から吐息が聞こえる。

 背後を振り返っても誰の姿もない。

 しかし、ジェイコブの耳は確かに何者かの息遣いする声を捉えていた。


「おいおい、悪ふざけはやめろよ」


 どうせ、悪知恵の働かせた冒険者が自分を怖がらせようとしたのだろう。

 大人になっても中身が子供だな、と微笑ましくなっている彼が木箱を持ち直し前へ向き直ると―――突如として何者かに首を絞められた。

 掴まれた首にかけられた手は以上に冷たく、人のものではない。

 息も出来ず、今にも押し潰されそうな喉の痛みに悶えながら自身の首を絞める者を見ると、そこには青白い肌と、憎悪に染まった瞳でジェイコブを睨みつける男の姿がそこにはあった。


『———』

「ぅ……ドレ、イク……?」


 体の芯から冷える感覚。

 明確な恐怖に錯乱し意識を手放しかけたその時、倉庫の扉が開け放たれ、酔って顔を赤くさせた冒険者がその場に足を踏み入れた。


「おい、ジェイコブ、酒がなくて皆困って―――」

「う、ぐ……」

『———』


 ジェイコブに酒を催促しようと文句を口にしようとした彼だが、ジェイコブが何者かに首を絞められているところを目撃し、その腰の剣を引き抜いた。

 雑に伸ばされた髭と、血にまみれた軽装の鎧。

 とてもまともな格好に見えない男の顔は、とても青白く―――生きた人間には見えなかった。


「ジェイコブ!!」

『———』


 冒険者の姿を見て、青白い顔の男はその姿を消した。

 首をしめられた状態から解放され、せき込みながら膝をついたジェイコブは朦朧とする意識の中、呆然とその名前を呟いた。


「ドレイク、どうしてお前が……」



 ライル・シングス。

 彼の日常を一言で表現するならば、質素というのが正しい。

 朝には死んだような目で豆の入った缶詰をスプーンで食べ、寝間着ぎのまま仕事道具を磨き、昼にはまた豆の缶詰を食べ、着替えた後に仕事道具を磨き、暗くなったところでまたまた缶詰を食べて、シャワーを浴びて寝る。

 その光景を観察した彼女は、もうこれ以上なく憤慨した。


「あんたは缶詰の申し子かなにかかァァァ!!」


 虚ろな目で椅子の背もたれに体を預けているライルに先日、メイドとして無理やり押しかけた少女―――ローラ・アレクサンドラが目を見開きながら詰め寄った。

 べしーん! とテーブルに叩きつけられた雑巾を見たライルは、面倒くさそうに顔を顰めた。


「なんだよ……簡単に済むから別にいいだろ……」

「栄養とかとれないでしょうが!? 缶詰も豆しかないじゃないですか! というよりどんな生活サイクル送っているんですか!?」

「たまに外で飯を食ってるから問題ねぇ」

「大ありに決まってるじゃないですか!?」


 不貞腐れるようにするライル。

 しかしローラからすれば、彼の生活は本当に理解しがたいものであった。


「貴方の缶詰は全て隠しました」

「……ハァ!? 明日から何喰えばいいんだオイ!!」

「ふっふっふ」


 ライル唯一の食事を隠す暴挙に出たローラはそれでも不敵な笑みを浮かべる。


「今度からは掃除の他に私が料理を作ります!」

「……いや、やめろよ。お前不器用そうだし」

「悉く失礼な人ですね……! そんな貴方に吠え面をかかせるために、既に食材の方は買っていますからね……!」

「厨房は使えねぇはずだろ」

「その心配はありません! この数日の間、生活で使うところは全て掃除しました!」

「お、おう……」


 行動力だけはあるローラに、ライルはため息をつきながら聖水のいれられた瓶をテーブルに置く。

 むふーん、と勝ち誇った笑みを浮かべたローラは、早速昼食の準備へ取り掛かろうとするが、ふと何かを思い出したのか、ライルへと振り返る。


「あ、そうです。さっき買い出しに行ったとき、ギルド近くの冒険者宿で騒ぎがあったんですよ」

「どうせ喧嘩だろ」

「いえ、そういうことじゃなくてですね」


 部屋の隅に置かれていた椅子を引っ張り、自然な所作でライルの前に座ったローラ。

 そんな彼女を見て「長い話になりそうだなぁ」と内心で面倒くさがっていると、ローラはその時の出来事を話し始める。


「宿に泊まっている人が幽霊を見たっていうんですよ」

「幽霊ねぇ……どうせ、ふざけた連中の悪ふざけかなんかだろ」

「ところがどっこい、その幽霊は十年前に死んだ人だったんですよ」

「……十年前?」

「確かな情報ですよ。なにせ目撃者である宿屋の主人からの情報ですからねっ」


 さらに得意げな表情を浮かべたローラ。

 少しだけイラっとしながらも、ライルは彼女の話に興味を持つ。


「その幽霊は何をしたんだ?」

「えーっとですね。宿屋の主人のジェイコブさんって人が首を絞められただとか……」

「……」


 危害を加えてくる幽霊。

 それを聞いて立ち上がったライルは近くにかけているコートを手に取り、必要な道具をカバンに詰め込みはじめる。


「ど、どうしたんですか?」

「現場に行く」

「私もついていっていいですか?」

「どうせ、止めても来るんだろ。邪魔だけはすんなよ」


 カバンを担ぎ、外へと繰り出す。

 嬉しそうにしながら、ローラが彼の後ろをついていく。


「目撃者は宿屋の主人だけか?」

「いえ、他に冒険者の方も見ていたそうです」

「……なんでそんなに知ってんだ?」

「こう見えて、この数日でご近所さんの信用を勝ち取っているんですよ。私」


 よくよく考えてみれば、ローラの口ぶりはまるで本人からその話を伺ったように思えた。

「むふふ」と得意げな表情になった彼女は、ライルの疑問に答えた。


「それに際して、何かおかしい事件とかを探しているんです。異常なことに遭遇したら、ここを訪ねるように宣伝したりとかしてですね、えーと他には——」

「……」


 ライルは迷いなくローラの頭にげんこつを振り下ろした。

 割と遠慮のない一撃に「ごむぅ!?」と苦悶と共にしゃがみこんだローラは、涙目になる。


「何するんですか!?」

「余計なことするんじゃねぇ!」

「だ、だってライルさん、基本ぐーたらなんですもん! 近所づきあいもドがつくくたいに下手くそで、知ってますか? ライルさん、ご近所さんから“幽霊屋敷に住む変人”って言われているんですよ!?」

「んなことどうでもいいわ! お前のせいで厄介事が舞い込むようになるじゃねぇか!」


 そう強く言い放つとさすがに堪えたのか、しゅん、とローラは落ち込んだ。


「だ、だって……」

「……はぁー、とりあえず現場に行くぞ」


 気まずげにため息を零したライルはローラを連れて、件の冒険者宿へと向かう。

 冒険者の集う宿。

 十年前に死んだ者の幽霊。

 ローラという存在が組み込まれ、徐々に変化していくライルの日常に彼は戸惑いを隠さずにはいられなかった。

「腹が膨れるなら何食っても同じだろ」なライルに激おこなローラでした。


次回の更新は明日の18時を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 缶詰めの申し子ライル [気になる点] ライルが一番好きな缶詰めは何か [一言] >ジェイコブ・ミリアード >>テイムオーガ 「ガタッ。なん…だと?」
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