第一話
はじめまして、くろかたです。
第三者視点でしかできないこと、というこれまでとは違った試みで書いた作品となります。
フォルダに眠らせておくのが勿体ないと感じたので、思い切って投稿。
第一話
冒険者、という職業が存在する。
十五歳を超えてから登録するだけでなれる命がけの仕事が、それだ。
仕事の内容は人に害をなす魔物の討伐からもの探しまで多岐にわたるが、ランクが高まっていくごとに危険度・報酬は上がっていく。
ランクが低ければ、子供でもできるお使いを任されることもあるが、それでも金はもらえる。
ランクが高ければ、命がけの任務を押し付けられ、それを達成すれば途方もない額の金がもらえることにある。
冒険者、または王国から派遣されたような騎士が討伐する魔物。
それは一般的にオークや、ゴブリン、肉食獣型の魔物など人に害をなす生物に限られる。
だが、俺達が相手をする奴らは違う。
この世界には、人が触れるべきではない別の世界を生きる怪物達が存在する。
そいつらは人間の生活の中に潜み、蜘蛛のように巣を張り巡らし獲物がかかるのを淡々と待っている。
中には人間にすら化けて人知れず悪事を働く賢い奴もいる。
影に潜む邪悪なるもの、殺すことができないもの。
そんな奴らを相手にするのが俺達、“狩人”の役目であり、使命でもあった。
●
「どういうことなんですか!」
喧噪で溢れるギルド内に女性の甲高い叫び声が響く。
美しい金色の髪に、動きやすさを重視させた軽装の鎧を纏った女性の睨みつけるような視線を受けた男性は気まずそうに眼を逸らすしかなかった。
室内の視線を集めながら、わなわなと震えた声の主、ローラ・アレクサンドラは構わず眼前の男性——、ギルド職員に問い詰めるように語り掛けた。
「どうして! 兄を探してくれないんですか!」
最初にギルドへと訪れてから全く変わらない主張に、さすがに彼もげんなりとしていた。
普通ならば彼女の依頼をギルド側は仲介するべきなのだろうが、それをしない理由もあったからだ。
「だから言ったでしょう。行方不明の捜索ならまだしも、貴女の兄、ハルト・アレクサンドラは既に死亡が確認されています。死体も出ていますし、捜索する意味がありません」
「あれは兄ではありません!」
「とはいいますけどねぇ……」
男性職員は面倒臭そうに、資料をローラに見せた。
そこには彼女の兄の身元と本人と証明する証拠が、明確に記されていた。
彼女は顔を真っ赤にさせて、さらに食って掛かった。
「だからッ、こんな状態の死体で兄かどうか確認できるはずがないでしょうが!」
「それは焼死体だからですか?」
「それもありますけどッ、私は数日前に兄の姿を見つけたんです! 森の中で!」
「見間違い、じゃないですか?」
「あれは間違いなく兄です!」
「……はぁ……」
頑として譲らないローラに、いよいよ折れた男性職員は手元に新しい書類を取り出した。
「で、お兄さんを見たのはどこですか?」
「王国の南東側を一時間ほど歩いたところです。必死に呼び止めたんですけど、無視してふらふらと霧の中に消えてしまって……」
「……」
あまりにもふわふわとした報告に男性職員は、筆をおき白紙の書類を机に戻してしまった。
ローラは憤慨した。
「ちょっとぉぉぉ! なんで書類をしまうんですか!?」
「もう付き合ってられませんよ! 南東側は、現在事件が多発している危険な場所なんです! そんなところに人がいるわけないじゃないですか!」
「本当に見たんですよ! あれは確実に兄でした! 後ろ姿だけでしたけど!」
「貴女の妄想に付き合ってやるほど、ギルド職員は暇じゃないんです!」
「な、なんだとぉ! このギルドの犬めが! ぶん殴ってやる!」
端正な顔を歪め、袖をまくり職員に掴みかかろうとするローラ。
周りにいる冒険者が止めようと動き始めるが、その前に一人の男性が彼女へと話しかけてきた。
「こらこら、よさないか」
「んん!?」
「ぎ、ギルド長!?」
現れたのは、口ひげを蓄えた大柄な男性であった。床を軋ませながら近づいてきた彼に男性職員は顔を真っ青にさせる。
一応、落ち着きを取り戻したローラは、今度はギルド長を見やる。
「君の持ち掛けた依頼は、受注基準に満たさないものだ」
「それは、なぜですか?」
「行方不明者を探すというものではなく、死んだはずの人間を探すというものだからだ。それに、王国の南東側は非常に不可解な現象が起きている。そんな危険な場所にうちの人員を送るわけにはいかない」
「……」
悔しげに黙り込むローラ。
ギルドが依頼を受ける基準は意外と厳しい。まず討伐するべき魔物正体が判明していること。そして依頼する内容と目的が明確でなければならないことにある。
ローラが提示した依頼は、既に死亡が確認された兄の捜索。既に死んだとされている人間を探すことに加え、王国の南東側という問題が起こっている場所に、ギルドの働き手である冒険者を送るわけにはいかないのだ。
「ローラだったね。君は今、いくつかな?」
「18歳です」
「なら余計にいかないほうがいい。今、あの場所ではおかしなことが起こっている」
「なにが、起こっているんですか?」
「……近辺の村の住人が何か強烈な力で縊り殺されていたことが事件の始まりだった」
異変を感じた隣の村の者がその村に駆け付ければ、村人のほとんどが虐殺されていたことが始まりであった。
住民は手厚く葬られたが、隣の村の者の証言によれば数人の年若い娘の死体が見つからなかったという。
当時は盗賊か魔物の仕業と考えられていたが、ほんの三日前に調査のために向かった高ランクの冒険者が村人と同じ方法で殺されたことで、事態は大きく変わってしまった。
「彼らは六人で、パーティを組んでいた。皆、同じ村から出た幼馴染だと口癖のように話していたよ。年は、君と同じ18だった」
「全員、殺されてしまったんですか?」
「いいや、正確に言うのなら見つかった死体は四人だけだった。二人の女性だけの姿だけが、どこを探しても見つかることはなかった。その後も、同じような惨劇が三度続いたことで、一連の事件の犯人は年若い18歳の女性を探していると関連付けるに至った」
目撃者は全員殺され、行方不明となった女性たちの生存も不明。
その事実を聞き、どうあっても依頼をすることができない悟ったのか、ローラは無言のまま俯いてしまった。
そんな彼女をジッと見つめたギルド長は職員から白紙の用紙を受け取り、そこに何かを書き込み彼女へと手渡した。
「……これは?」
「この件の解決を俺個人が依頼した者だ。そいつなら、君の兄を見つけられるかもしれん」
ギルドの長と呼ばれる男性に個人で依頼された人物。
その言葉を聞いたローラは、誰もが見惚れるような花のような笑顔を浮かべた。彼女は両手でギルド長の手を取り、「ありがとうございます!」と言いながらぶんぶんと振りだした。
「ああ、しかし、そいつは性格に、ちょっと……いや、かなり難があるから――」
ギルド長がそう言いかけるも「では早速向かってみます!」と揚々とギルドを飛び出していくローラ。
よほど兄を探せるのが嬉しかったのか、はたまた別の理由があるのか定かではない。
彼女に紹介したのは、彼にとって長年の友人といってもいい男である。しかし、友人といっても一癖も二癖もある性格であり、人と関わることが大嫌いな男だ。
そんな彼に、やる気の塊といってもいいローラを合わせても良かったのだろうか? と、今更ながら紹介したことを後悔するギルド長であった。
次回、主人公登場となります。
次話はすぐさま更新いたします。




