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第十八話

いらっしゃいませ、安っぽい挨拶に出迎えられ俺たちは空いている席へと促される。

「一度来てみたかったんですよね、こういうとこ」彼女はそういってメニューを手に取ると人差し指を顎のあたりから唇へとなぞるように持っていく。いまだに慣れない。彼女の仕草ひとつとっても新鮮に思え、愛おしくなる。

「青山さん、これおいしそうですよ」彼女も不親切なもので、自分に向かってメニューを見開いているのだから、自然と俺が覗き込まなければならないじゃないか。まぁ、胸元を自然に凝視できるので良い。どれ、見てみようと彼女の胸元の辺りに顔を持っていくと、当初のもくろみは泡になった。「あ、見にくかったですよね。どうぞ」メニューを手渡され、ここです。そう言われ彼女の指さす場所を見て思わず目眩がした。『当店自慢の一押しメニュー!!ロブスター新入荷!!』こう書かれている。ロブスターって確か高いエビかカニだったはずで、それを平均予算二千円の店で出しているという事もあるが、彼女の「破産させます」と言う言葉もあながちウソではなかったのだという事が、目眩の原因かもしれない。「ロブスターって、高いんじゃなかったですかね。多分予算オーバーですよ」チッチッ、古臭いリアクションをしながら俺の誤りを今にも指摘してそうな彼女。

彼女は心底楽しんでいるようで、よく見てくださいと言って俺に値段を見るように言った。

『今なら、なんと!なんと!ご奉仕価格でご提供いたします!!」ずいぶんと威勢のいいご奉仕価格だな、そう思った。正直な感想だった。威勢のいい割には値段が小さめに書かれているあたり、やっつけ仕事だろうか。一匹あたりの値段は……ご、五千円。高い、高すぎるだろう。

ふざけるな、こっちは無職で履歴書には止む無くフリーターと書く身分であって、それにコイツ一匹で、二人分の飯とコンビニでアイスのフルコースがいただけてしまう。「どうですか?ロブスターにしては安いですよね。早く頼みましょうよ」急かすな、頼むから急かさないでくれ。マイホームを買うような気持ちを落ち着かせるためにも、とりあえず水を飲ませてくれ。

ちょうど良いタイミングで店員がおしぼりと、水の入ったコップ、キャッチャーを持ってきた。ありがたい、とすかさず店員の顔を見た。そこには無愛想で、キリンとギターを混ぜたような顔をした俺と年が変わらないであろう野郎がいた。あいにく、俺にはソッチの趣味はない。つまり、もう用はないのだが野郎は立ち去ろうとはしない。

何と、野郎はあろうことか彼女を見ているではないか。なるほど、なるほど。なんとなしに理由を把握した俺は、咳払いを一つやって、野郎に注文してやることで格の違いを見せつけることにした。「これを二匹。後、ワインを適当にこれで」俺は以前ネットで仕入れた情報で指を二本立てると人に見合ったワインを提供してくれることを知っていた。つまり、俺が二本指を立てれ

ば、悲しいが俺ぐらいであれば二千円かな、と思って気を利かせてくれるだろうし、彼女の手前こういった少し洒落たテクニックを披露したいと思ったのだ。二十五歳無職だが男の性である。

「かしこまりました、少々お待ちください」かしこまったキリンとギター……長ったらしいのでゴリラと呼ぶことにしよう。ゴリラは仏頂面でそういって店の奥へと消えていった。俺がゴリ

ラの後ろ姿を見送っていると、彼女が小声で囁いてくる。

「青山さんって、結構こういう店来るんですね。見直しちゃいました

」ワインの件だろう。「いやいや、初めて来たんですけどね。慣れたもんですよ」今更ながら、意味不明、支離滅裂な返事であ

る。しかし、彼女は気にも留めていない様子でこちらに笑顔を向けてきていた。


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