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第十話

 

「あの、分かりましたから。分かったから手を離してください」彼女はこちらを見据え少し不機嫌に眉を上下させている。


 俺は、彼女のこんな様子を見て普通なら、困惑しているだろうがそんなことはなかった。


 何せ、自分がしたことの重大さに今やっと気づいたからだ。顔が熱く、次第に腹までそれは進行してくる。


 全ての感覚が過敏になっているようで、自分の呼吸音すらリアルに聞き取れる。とにかく一言、何かを話してしまいさえすればそれで、この感覚もどこかへ行ってしまうだろう。そう思った俺は彼女へ言った。

「いや、あの、えっと腕大丈夫ですか」すると彼女は一瞬の間もなく俺へ言葉を投げかけてくる。


「これが大丈夫に見えますか?むしろ痛々しくないでしょうか」言われたとおりに彼女の細い手を見てみる、そこには俺が付けたと思われる、まるで縄で縛られた跡のようなくっきりと赤く染まった姿は確かに痛々しい。


「申し訳ございませんでした」状況を理解した俺は、すぐに頭の中も外も薄くなっている名ばかりの管理職並みの手際の良さを見せつけるかのように土下座をした。言っておくが俺の人生の中で真剣に人に頭を下げたのはこの時を入れて二回だけだ。残り一回は?


 そう思うだろうがそれはまだまだずっと先の事だ。期待しないで待っていてくれ。


 彼女は、俺の肩を両腕で掴みあげ、そんな大げさな、いや、うん、気持ちはうれしいけど。そう繰り返しながら俺の目をキッと鋭い目つきで見る彼女。

 場面の問題だろうが、大概この後には熱いキスが待っているだろうが、

 俺の場合はそうもいかなかった。


「いいですか、青山さん」「はい」

「二度目はないですからね、埋め合わせ期待してます」

「え、はい喜んで」彼女はそれじゃ、と言いながらドアの向こうへと入っていく。


 俺こと青山憲法二五歳と半年のフリーター。そんな俺がこの後彼女と色々としてしまうのだが、それはまたの機会に譲るとしよう。


 もう眠いし何よりここ最近この手記の事がやけに気にかかって仕方なくてロクに眠れてないんだ。

 とにかくそういう事だ、それじゃまた。

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