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第一話

午前一時を少し回った頃俺は眠たい目をこすりながら起き上がった。さっきまで寝ていたせいかのどが渇いて仕方ない。冷蔵庫へ向かい扉を開けるとそこにはなにもなく少々,苛立ちながらその扉を思いっきり蹴っ飛ばした。すると扉にもその苛立ちが伝播したのか、しきりにピーピーと鳴きわめくようになり,次第にその奇声は俺の耳の大半を支配するようになった。

自分のせいだがどうすればいいのかわからず毛布を掛けてやったり、電源プラグを引っこ抜いたり 差し戻したりを繰り返したがいっこうにやむ気配はなく抱えるほどの頭では無いが一応そのポーズをしてみると、不思議なもので死んだばあちゃんの顔が浮かんできた気がする。先人の知恵を借りるべくその幻想へ語りかけてみることにした。


数分後、目の前にはピーピーやかましい白い物体とその付属物だろうか分厚い板が横たわっていた。「おかしい、ちゃんと先祖と対話したのにな。案外役に立たないもんだなばあちゃんって」ため息をつきながら俺はゴミ捨て場のすぐ近くで偶然拾って以来愛用しているダイナミックと書かれたパソコンを立ち上げた。

「ダイナミックという名を冠している割には起動が遅いのが玉に瑕なんだよなぁ」バチッバチバチッと音をたてながらもダイナミックはいつにも増してチンタラやっている。時間を持て余した俺は、暗い画面に映る自分を見ながら髪をいじってみたりポーズを決めてみたりしていた。

すると、ダイナミックが突然ウィーンと音をたてその瞬間パッと視界を明るくする。

 「よしよし、ようやくですかダイナ君。待たせた分はきっちりと体で払ってもらうよー」いつもの調子で検索サイトを開きカーソルを合わせキーボードを勢いよく高速タイピングしていく。

「冷蔵庫 壊した 治す」カタッと気持ちよくボタン押し検索すると

画面上部には「冷蔵庫 壊した 直す ではないですか?」の文字が。若干ではあるが気分を害した俺は気を取り直すべく、台所へ行き換気扇のスイッチを入れながら、煙草に火を点けフィルター越しに迫ってくる煙を思いっきり吸い上げ肺へと充満させ間髪入れずに勢いよく吐き出す。


モワッとした煙が換気扇へと吸い込まれていくのを見ながら満足感に浸っていると何やら玄関先が騒がしい。のぞき穴へ目を通してみるとそこにはレンズ越しにもわかる美人が慌ただしく積みあがっている段 ボール箱を向かいの部屋へと運び入れていた。

「これは、夢にまで見た美人お隣さんというやつではないだろうか。いや、正確にはお向かいさんか。しかしこんな夜中にどうして引っ越しをしてるんだ」

不思議に思った俺はお向かいさんに声をかけることにした。普段は気にも留めないガチャっとした軽い音も時間帯を考えると、なかなか憚られるという気持ちを知らず知らずのうちに抱いていたのか、そっと音をたてぬ様にドアを開けながら小声で「すいませーん」とつぶやくようにして声をかけると、お向かいさんは言う。

「うわっなんなんですか?脅かさないでくださいよ」

字面では可愛らしく見える言葉だが実際にはこの世のものではない何かを見るようなそんな冷たい目で見つめられながら言われるとなかなかきついものだ。しかし、そんな俺の心中を察してか知らずか彼女は手に持っていた重そうな段ボール箱をまた積みなおし意を決した様子で俺を睨み付ける。

威圧感を感じながらしばらく互いに無言を貫いていると、彼女自身耐えかねたのかこちらへと詰め寄るようにして顔を近づけてきた。次の瞬間、彼女の口から出た言葉に俺は胸を躍らせた。


 「自己紹介がまだでした、隣に引っ越してきた川角です。先程はこういった状況も相まって気が動転しており不躾な物言いをしてしまいました。良かったら今後とも仲良くしてくださいまた後日ごあいさつに伺います」相変わらず目の奥からは生気が感じられないが言葉は丁寧で文句のつけようがない。それに美人だ。今までの人生で出会ったことの無いくらいに。

これで愛想と笑顔が伴えば完璧なのに、文句を言える立場ではないが大人の男として礼には礼をと思い最大の笑顔を見せながら彼女へこれからも仲良くしてほしい、良かったらその荷物運ぶとの思いを伝えた。彼女は一切の感情を捨て去ったかのような表情で「あ、はいそうですか。ワカリマシタ、それではまた後日」ガタンっと勢いよくドアを閉め部屋へと戻っていった。

荷物の行方も気になったが何より返事を貰えた事に満足した俺は明日への希望を胸に部屋へと戻った。

玄関先で余韻に浸りながらやけに部屋が寒いことに気付く。

「もうすぐ春だってのに俺の部屋には温暖化は関係ないな」原因はなんだろうかと頭を巡らせてみると換気扇の存在を思い出す。ふと、視界の端にダイナミックを捉えて立ち止まろうか迷った末に換気扇が優先と思い、台所へ向かうとそこからはさっきまでの幸福感から一転して現実が迫ってきていた。夜中にも関わらず自己主張の激しい換気扇、床には早く楽にしてくれと言わんばかりの冷蔵庫。

虚無感と幸福感との間に揺れ動くことに慣れていない俺は急激に襲ってくる眠気に身を任せることにし、ベッドへ入り天井を見ていると先程までの眠気はどこかへ消え、色情夢を見るのではないかと思われるほどお向かいさんとの妄想へと励んでしまった。あわよくば夢の中でいいから色々と致したい深層にある色情を抑え込むのに多少苦労しながらもどうにかそれがヘタると途端に視界がブラックアウトしていった。

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