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1:始まりの日

 「一つ、世界を滅ぼす仕事をしてみませんか」

 

 それはフリーターな自分が訪れたある職場で言われた言葉。

 どういう事だろうか、自分はアルバイト情報を見て、面接に訪れたはずなのだが……。

 かなりの好条件だった。だからこそ、自分はダメ元で連絡し、面接にやって来て面談したスーツ姿の七三分けに黒縁眼鏡なんぞというどこぞのテンプレートなサラリーマンという自称神様にいきなり、真顔でそんな事を言われた訳だ。

 いや、自分は既にこの相手がただの人じゃない事は分かってる。さっきまで何の変哲もない倉庫の一角に設けられた事務所、その応接間にいたはずなのに、「すいませんが、少しこちらの部屋に」と言われて案内された別室。何か自分はいきなりミスでもしたのかと冷や冷やしながら来てみれば、「さて」というサラリーマンの一言と共に周囲は神殿のような豪奢な場所へと切り換わり、そして今、えらい立派な机と椅子に座って、純白の羽根の生えた絶世の美女が持ってきた香りの良いお茶とお菓子を前に座っているなんて状況を体験すれば。

 勧められて、一口飲んだお茶がまた絶品。

 自分は「お茶なんてどうせ大差ないだろ」と思ってたが、そのイメージが一瞬で木っ端みじんに砕かれた気分だった。

 思わず口にしたお菓子もこれまた天上の美味という奴で、気づけばお茶もお菓子も綺麗に消えていた。

 ここでようやく我に返って、慌てて謝罪したがにこやかに笑って「いえいえ、そんなに美味しそうに食べて頂けて嬉しいですよ」と言ってくれただけでなく、卓上に置かれたポットからお茶の御代わりまで注いでくれた。そうして、ひたすら恐縮する自分に言われたのが冒頭の言葉だった、という訳だ。

 あ、それとこの部屋やさっきの女性自体は神様曰く「人々の抱く神様の家」「人々が抱く神に仕える存在」へのイメージらしい。まあ、普通、どこかの何の変哲もないアパートの一室に神様や仏様がいるなんて某漫画じゃあるまいし、思わないよな……。

 そんな神様の傍にいる相手だって、まあ天使って旧約聖書のそれは必ずしも人の姿をしてる訳じゃないんだが、現在の一般的なイメージと言えば白い羽の生えた美形ってのは納得出来る。


 「とはいえ、いきなりこんな事を言われても理解も納得も出来ませんよね」


 ええ、そりゃまあ。

 さすがに呆然としてた自分に向かって続けて言われたのがそんな言葉。

 神様って言われただけでも普通は納得出来ない、というか普通は「こいつ頭大丈夫か?」と思うのが普通な訳だが……とんでもない演出だけじゃなく、こうして相手の言う事に納得してる自分がいるのもまた、神様の力の一端なのかもしれないなあ。

 「信じる者は救われる」

 なんて、有名な言葉がある訳だし。ちと違うか?

 まあ、今は話の続きだ。


 「という訳で詳しい事情をお話しましょう」


 そうして最初に語られ出した神様のお話。

 それによると、目の前の神様は端末もいい所、その本体はこう見えて、幾つもの、それこそ無数の世界を管理している位の高い神様らしい。

 そんな神様が今回、滅ぼしてほしいと言っているのはそんな無数の世界の一つ、自分達の体で例えるならば数十億の細胞の一個、という扱いらしい。


 「しかし、その世界はいわば病気の素でして」


 ガン細胞とかに変質しつつある、と言えば分かりやすいでしょうか?

 成程、イメージは伝わった。

 早期発見は出来た。だから、それが病気として世界に蔓延して手遅れになる前に世界という細胞を潰す、って事か……。


 「ええ、それで合っています」


 深いため息をついて語ってくれたが、本来ならばそれぞれの世界を管理する小神とでもいうべき存在が目の前の本体以外にいるらしい。

 それらの神様達の管理方針は実に様々。

 最低限の部分を抑えて放置する神様もいれば、積極的に世界に関与する神様だっている。神様達は別に崇められていないから消えるとか、崇められているから力がどうこういう事はないそうで、だからこそ神様ごとに性格の差が出ているのだろう。何せ、大多数の神様の素体はその世界の住人らしいからな。

 目の前の神様が作った神様も当然いる訳だけど、そうした神様はいわば量産型。

 無限に等しい世界をいちいち細かく設定するのは面倒だから、基本となるフォーマットがあって、そこに必要な能力を足してその世界を管理させるらしい。

 けれど、それだと当然細かい部分で歪みが生じる。

 そこである程度世界が成熟した所で、一定以上の魂を融合させてその世界を管理する専用の小神を誕生させるらしい。

 

 結果として、ある世界は神様の存在が殆ど認識されてない科学世界になり、またある世界は神様を崇める神権国家が世界を統べていたり、或いは剣と魔法のファンタジー世界になったりと多種多様な世界が生まれるらしい。無論、神権国家が成立したとて必ずしも管理する神様を崇めてるとは限らず、それどころか彼らが崇める神と対立する邪神扱いされてるような世界まであるらしい。

 

 「別段おかしな話ではなく、神にとっては必要な事でも神の力を振るわれる側にとっては災厄に等しいという事はあるものですからね」


 まあ、神の罰として滅ぼされた話なんてこの世界にだって幾らでもある。

 ノアの箱舟だってそうだし、モーゼの海を割ったって話だって閉じた海に飲み込まれたエジプト側からすれば災厄でしかない。ある国にとっての英雄はその国と敵対する側からすれば、怨敵、憎むべき敵でしかないという厳然たる事実がそこにあり、第二次世界大戦の頃でさえ、ある国の軍人の余りの戦果に被害担当となった国のトップがその軍人の首に莫大な賞金をかけた程だ。

 って事は……。


 「ええ、まあ、推測の通り、ただ単に仕事が終わったからやんだ災害を『我らの神が我らを救いたもうた』と勝手に定義しただけですね」


 まあ、イワシの頭も信心から、とも言うしね……。

 

 「話を戻しますが、本来なら対象となる世界にもその世界を管理する小神がいたんですが」


 これが徹底的な放置主義者で、自動管理型の端末を作成して自分は閉じ籠っていた。

 そこまでは良かった。問題はそれらが対処出来ないような事態が発生して、管理神に連絡が行った時、放置していた事だ。通常は面倒でも、そういう時は動いて事を片づける。けれども、その神はそれでも動かなかった、というよりその世界に絶望していたらしい。

 それでも普通ならその世界が滅ぶだけで済むはずだったのに。

 

 「絶望した理由の一つというのが他世界への侵攻でしてね」

  

 なまじ清廉な英傑の魂が管理者となった事が災いした、と神様は深いため息をついたのだった。

 

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